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#3963 生徒がもってきた英文和訳問題(2):解説 Apr. 17, 2019 [62-1 個別指導の実際]

<最終更新情報>
4月18日朝9時50分

 前回の弊ブログでZ会で最近宿題に出された英文和訳問題文を紹介した。生徒がネットで解答が見られるというので、作ってあった和訳と比較対照してみた。
 問題文を再掲してからがいいですね。青字の部分が英訳に指定された文です。

 If you counted the times you say "please" in a day in relation to the number of requests you make of your employees, telephone operaters, store clerks, whomever, I would bet you could increase your usage of the word tenfold.

  And if you do, pay special attention to the results, for it is my observation that a person's willingness to comply --- even the promptness with which he complies --- improve dramatically when your reguest or instrution either starts or ends with with a simple "please".

 「And if you do,」のdoは代動詞ですが省略もあります。一文前のところを見るとわかります。深層構造に書き換えてみます。
 And if you increase (your usage of the word tenfold), 
  直前の文を見れば do の正体が判明します。the word は定冠詞がついているので、"please" を指しています。だから意味は「プリーズと十倍言えば」ということ、単なる条件節です。do が increase になり、( )で示した省略句を補えば意味は精確につかまえられます。

 
問題はその次の部分にありました。
 「And if you do, pay special attention to the results, 」この文の pay 以下を命令文ととっていると解答を見た生徒が主張してました。形の上からはなるほどそうですが、深層構造(Deep Structure)は命令文ではないようです。第一、意味が通じないでしょう。この生徒は高1と高2の教科書の精読を終わり、高3の教科書をすでに半分消化していますから、文脈判断があるていどできます。平易な日本語で訳文を書くトレーニングを積んできましたから模範解答の不自然さに気がついたかな。
 同じようにDSに書き換えてみます。
 And if you increase (your usage of the word tenfold), (you) pay special attention to the result, ...
 条件節と帰結節の主語が同じだから、あとのほうが省略されただけですから命令文ではありません。従属節と主節の主語が同じなら、どちらが先に並ぶかという順序の問題がありますが、あとのほうが省略されるというのが、英語の基本的な修辞ルールです。
 「条件節と帰結節」は数学記号で書くと「P ⇒ Q」です。「プリーズと十倍言えば ⇒ 特段の配慮をしろ」ではそのあとの理由の節と意味の整合性がとれないことは普通の学力がある高校生なら理解できます。省略された主語の you を補って、すなおに、次のように読みましょう。
  「プリーズと10倍言えば、その結果がよくなるように特段の配慮をしています」

 対比のため「富士山の頂上なら水は95度で沸騰する」という例文を挙げます。
    If the water on the top of the Mt Fuji becomes 95 degrees, it boils.

  この例文では条件節の the water は主節では代名詞 it で置き換えられます。ところが問題文は条件節の主語が代名詞の you なのですから、主節の主語は同じ you の繰り返しになります。だから、同じ主語なら後置される主節のほうの主語が省略になっているのです。もう一つ挙げましょう。
 I become sleepy if tired. (疲れたら眠くなる)
 このケースでは、if (I am) tired の括弧内が省略されます。if節が前に来れば次のようになります。
 If I am tired, become sleepy.
  どちらの文が自然かというとわたしは最初にあげた if 節が後置されるほうをとります。ではなぜ逆順になったかという問題が残りますが、直前の文を if you do の do が受けているので、そちらを前置して、前の文とのつながりを明示したかったからでしょう。 


 その次の接続詞 for 以下の節を読めばなお一層はっきりします。
 for は前置詞ではなく理由を表す接続詞です。「P ⇒ Q(PならばQ)」と言った後で、その理由を補足しています。それがこの節の論理的な役割です。なぜ接続詞であるのかは、forのあとに節構造が配置されているからです。そしてここで多くの高校生が迷ったのではないかと思います。「for it」と塊で理解してしまうと前置詞に見えます。そうすると is 以下の節が訳の分からぬものになってしまいます。
 この節の it は主語で that 以下なのです。主語が節構造をとっていてとっても長く、いわば「頭の重い」文になってしまう。そういうときは、仮の主語 it で代用し、真の主語は that 節で後置するのが英文を書く際の基本的なルールです。it~that 構文とか it~to 不定詞構文は同じなのです。後置される主語が to 不定詞句か that 節かの違いだけで、どちらも長すぎるということ。英語の修辞上の基本ルールは主語が長ければ it で置き換え、そして主語はこれだよと指示しているthat以下をみよということです。主語を「 」で括って青字にして、動詞と主格補語を黒字にして、本来の位置に文を書き直してみましょう。

 「 a person's willingness to comply --- even the promptness with which he complies --- improve dramatically when your reguest or instrution either starts or ends with with a simple "please"」 is my observation .

 長い主語でしょう、不格好です、如何にも主語の位置が気持ち悪いのがよく伝わってきます。だから、itで代用しておいて、あとからthat節で説明するよということなのです。to 不定詞句を利用して句構造になるなら節構造ではなく主語は句構造になるだけのことです。
 簡単に書くと
 it is my observation.
  たったこれだけの文なんです、とってもシンプルでしょ。

 「even the promptness with which he complies」、挿入句であるこの文も日本語にしづらい、とくに promptness が厄介ですね。ジーニアス4版には載っていません。抽象名詞語尾の ness を外した prompt はなじみのある単語ですが、prompt を知っていてもこの場合は類推はちょっと無理。この単語を見たとたんにわたしは初期のころのパソコンで「プロンプト」を思い出しました。画面が入力町になります、それがプロンプトでした。「うながす、促進する」くらいの意味でしょう。「機敏な」という形容詞の方を知りませんでした。ネット辞書 Weblio で検索したら、「即発、機敏さ」とありました。シンプルセンテンスに書き換えておきます。

    he comlies with the promptness
 he=a person ですから、逐語訳すると「人が機敏さをもって対応する⇒機敏に対応する⇒緊急対応」という意味ですが、事情がわかりませんね。
 欧米では職種がはっきり決まっており、たとえば、お店がどれほど客で混雑していても掃除で雇われた人が、品物の包装を手伝ったり、お客さんの相手をするなんてことはしません。経理担当の人がたとえ上手に包装できたとしても、商品の包装の手伝いをすることはないわけです。日本では、「〇〇さん、ちょっとお客さんの相談に乗ってあげて」とか「お客さん待たせているから、経理の〇〇さん包装手伝って」ぐらいは言えますし、それですぐにそうしてもらえます。ところが欧米ではそうではない。他の職種の人の仕事を奪うことになるからご法度です。そのあたりのことを理解していれば、even 以下の挿入句の意味がよくわかります。「緊急対応ですら」という意味になります。こういうことをするには、マネジャーがその人にお客が混雑してきたら、客あしらいもお願いしますとあらかじめ雇用契約に含めることになります。手続きが面倒なのです。お客が込んできたからと言って、急に「職種変更」できません。そのあたりの不都合を「プリーズ」を発話の前か後につけることで何とかしようというわけです。具体的な状況が頭の中に再現できたら、あとはそれを平易な日本語に置き換えるだけ。
 文化に対する周辺情報を知っているかどうかが訳文に反映してしまいます。だから、異文化理解とか、話題になっているものやことがらに関する周辺情報を知っておくことは必要なのです。教養は広くて深い方がいいとはこういうことがあるからです。

 あとは日本語の作文能力がためされます、これだけ長いとたいへんです。
 参考訳を書いておきます。和訳の日本文のストライクゾーンは広い、のびのびやりましょう。

「だれかれかまわず人にプリーズと十倍言えば、(要求や指示の)結果がよくなるように特段の配慮をしていることになります。というのは、要求や指示をプリーズという言葉で始めるか終わらせるかすれば状況が劇的に変わり、人は自ら喜んで応じてくれるというのがわたしの観察するところだからです。(その人の本来の職務ではないことを)緊急に頼んだ場合ですら、(プリーズと言えば)人は四の五のいわずに喜んでやってくれるものです。」

 こんな訳文を書いたら、Z会の採点では6割ももらえるかな?Z会にはZ会の採点基準があるようですから、それにチューニングした訳文を書く必要があります。でも、点数なんか気にせずどんどんやっちゃった方が、学力は伸びます。

 和訳するときの冠詞類の扱いについてコメントしておきます。
 the results には定冠詞がついているので、わかりやすくするために( )で補った語を付加してかまわないのです。冠詞類は日本語にはない機能ですから、それらをどのように日本語にするかは訳文を作る人の個性が出るところでしょう。a と an と the と無冠詞はそれぞれ特別な意味を名詞句に付与しています。冠詞類をないがしろにしてはいけません。これも慣れです。いつも冠詞類を意識して英文を観察していればセンスは自然に磨かれます。

 数学の勉強でもたとえば三角関数の加法公式だけ覚えていれば、差の公式も倍角の公式も半角の公式も30秒で導き出せます。sinとcosだけ覚えておけば、tanはsin/cosですから、これも1分あれば計算できます。逆関数も同じことです。つまり、基本的なことだけ覚えておけば、あとは芋づる方式ででてきます。成績の悪い人は、個別に全部暗記して、脳がパンクしてあきらめてしまいます。成績のよい生徒は暗記するものを選別して量を数分の一にしています。だから、脳の負荷が小さく、応用が利く。英語も同じなんです。基本ルールが何かを常に考える、そしてそこから派生的なものを区別し、基本ルールを徹底的に利用・応用してみる。
 
 問題文と前段の文を引用しましたが、前段の文は仮定法過去、現実に反する仮定ですが、問題文のほうは単なる条件節の文です。これは対比という修辞上の配慮でしょう。文が効果的に配置されています。整理整頓されたこれら2文の配置をレトリックといいますが、美しさを感じませんか?わたしは感じます。

 形、受験英語では「構文」というようですが、それは表層構造であって、「構文」に騙されることもあるのです。深層構造と英語の作文上(修辞上)の基本ルールを知っているだけで十分ですよ。あとは多読してたくさんの事例を消化すればいい。

 質問をした生徒は夏休みが終わるころにはハラリの500頁ある著書Sapiensを読み始めます。高校教科書を卒業してフィールドでの精読トレーニングへ突入です。英語を読む力が飛躍的に伸び、問題文の難易度が高くなるほど学力差がでます、偏差値は結果でしかありません。
 全国の若いお医者さん、よろしければどうぞ市立根室病院へ赴任してきてください。根室高校の先生たちも学力の高い生徒の育成に特段の配慮をしてくれています。今年の四月から阿吽の呼吸で協力体制ができつつあります。医学部進学のこどもの教育の面倒は根室市では地域協力が整いつつあるのでいましばらくはみられます(笑)

#3962 生徒がもってきた英文和訳問題(1):Z会 Apr. 16, 2019
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#3962 生徒がもってきた英文和訳問題(1):Z会 Apr. 16, 2019 [62-1 個別指導の実際]

 高2の生徒がZ会の英語問題をもってきて質問をした。英文和訳の問題なのだがさっぱりわからないという。日本語にするだけでなく、なぜそういう英文が生成されたのかについても解説する必要がある。
 宿題か試験問題のようだから、答は書かないし、解説もやめておく。高校の教科書にはこんなに複雑な文は出現しない。でも英文を読みなれている大人にはむずかしくないだろう。(笑)

 If you counted the times you say "please" in a day in relation to the number of requests you make of your employees, telephone operaters, store clerks, whomever, I would bet you could increase your usage of the word tenfold.

  And if you do, pay special attention to the results, for it is my observation that a person's willingness to comply --- even the promptness with which he complies --- improve dramatically when your reguest or instrution either starts or ends with with a simple "please".

  英文和訳の問題は青字の2番目の文である。いまこうしてみると二つとも文が長い。

 この2文で、tenfoldなど3-4の単語にはアスタリスクがついていたから、脚注に和訳が載っていたのだろう。
 前の文がないと do の意味が分からないのと、レトリックがわからなくなるので、転載しておいた。全体の一部分、関連のある途中の文を2つだけ転載した。

 in relation to は「比較すると」くらいの訳がいいだろう。doが何を指しているのか、そして2か所の省略に気がつけば意味が分かる。forの品詞が接続詞なのか前置詞なのか、代名詞itが何を指しているのかも重要なポイントだ。

 意味はsimple sentence (= Deep Structure 深層構造以下DSと略記)にあるから、生成文法を利用してDSに分解して生徒に解説している。DSから表層構造(Surface Structure)へは何段階かの文法工程があるが、それを復元することは英作文のトレーニングにもなる。
 構造言語学者であるチョムスキーの生成文法を知らない先生が多いと思うが、こういう英文を生徒にどうやって解説するのだろう?たぶん、受験英文法の範囲内での説明になるのだろうが、それも可能だが、あまり感心しない。そういう解説は、生徒のほうからは「曲芸」に見えてしまわないか?

 こういう英文を10分以内で適切な日本語にできる高校生がいたとすると進研模試なら偏差値は90あたりではないか。偏差値90は3/100000だから、おおよそ3万人に一人の割合だ。進研模試の受験者が45万人とすると全国の公立高校2年生に15人くらいそういうレベルの高校生がいそうだ(3年生なら数千人はいる)。高2で1月の進研模試英語偏差値75の生徒にはこの問題は無理だろう。そうして考えるとZ会の難問ってレベル高い。
 高3の問題なら、それほどの難易度ではない。

 個別指導授業でハラリのSapiensを半分くらい読めば、英文に慣れるのでこういうレベルの英文ならすらすら訳せるようになる。到達目標は来年の夏ころになりそうだ。
 毎日、コツコツやっていたら、1年後にはスキルはずいぶん向上している。それが高校3年間続いたら、はるか高いところへ登ってしまう。若い人がする日々の努力は飛躍的な成長の糧である。

<余談:生成変形文法>
 生成変形文法に出遭ったのは、大学院入試の準備で直前に一月ほど東京都板橋区立図書館で勉強していた時のことだから1975年だった。大野照男著『生成文法と英文解釈』を書棚で見つけたのである。経済思想史の本を原書で読んでいたのだが、腑に落ちない箇所が何か所も出てきてもやもやしていたので一気に読んだ。エリック・ロールの『経済学説史』(有斐閣、昭和26年初版)の原著だったはずだが、翻訳者の隅谷三喜男先生の訳は名訳ではあるが、原著を読んで意味がはっきりしないところを隅谷先生の翻訳書を参照すると、やはり文脈から行っておかしいと感じざるを得ないところが、ときどきあった。『変形文法と英文解釈』を読むことで疑問が氷解したと同時に、隅谷先生がどういう部分で誤訳をしたのか、そしてその理由もはっきりした。生成文法を知らないから、深層構造に分解できなかったから当然のことで、前後関係から「気合」で翻訳したように見えた。そういう箇所は外れてしまうのである。変形文法的にいうと文法工程指数の大きい文章に誤訳がでてしまう。経済学書に関しては生成変形文法を知ってから翻訳が楽になった。ごまかす必要がない。もちろん、文脈を精確に読み取れるなら、生成変形文法がなくても大丈夫な場合があるが、文脈では推測できない文もある。
 生成変形英文法を利用するときはほどほどにしておくことだ。あまりやりすぎると自己目的になり、手続きが面倒になるだけ。目的の範囲で必要最小限でいい。頻繁に繰り返すうちにスキルが上がり、見ただけで深層構造がわかる範囲が広がる。
 構造言語学は理系の分野、自然言語理解の分野なので、自動翻訳関係の仕事に携わるエンジニアは20年前までなら一度は目を通しているだろう。チョムスキーのこの分野の翻訳書は理系と文系の両方にまたがるのでほとんどなかったが、いま調べてみるとたくさん翻訳されている。一昔前には生成変形文法をベースに英文法参考書を書いている先生が一人だけいた。安井稔著『英文法総覧』は元々は高校教員向けに書かれた参考書である。昭和62年の第1版10刷りで読んだが、その後2015年の改訂版を買って増補された部分に目を通した。高校生が読むなら『英文法総覧』を薦めたい。
 なお、安井先生にはチョムスキーの著作の翻訳が一つあったはずだが、本棚に見当たらぬ、棄てたのかもしれない。ああ、思い出した、『文法理論の諸相』というタイトルである。なお、この本はいまは新訳が岩波文庫から『統語理論の諸相』というタイトルででている。
 
 その後、構造言語学に興味が湧いて、チョムスキーの原著と解説書も読んだ。読んだ本をamazonから拾って紹介しておく。

 大野照男著『変形文法と英文解釈』株式会社千城、昭和47年刊 は絶版

 この本は1988年版のもので読んだ。

Chomsky's Universal Grammar: An Introduction

Chomsky's Universal Grammar: An Introduction

  • 作者: Vivian J. Cook
  • 出版社/メーカー: Wiley-VCH
  • 発売日: 2007/05/07
  • メディア: ペーパーバック
Knowledge of Language: Its Nature, Origin, and Use (Convergence)

Knowledge of Language: Its Nature, Origin, and Use (Convergence)

  • 作者: Noam Chomsky
  • 出版社/メーカー: Praeger
  • 発売日: 1986/01/14
  • メディア: Perfect
Transformational Syntax (Cambridge Textbooks in Linguistics)

Transformational Syntax (Cambridge Textbooks in Linguistics)

  • 作者: Andrew Radford
  • 出版社/メーカー: Cambridge University Press
  • 発売日: 1981/11/12
  • メディア: ペーパーバック
英文法総覧

英文法総覧

  • 作者: 安井 稔
  • 出版社/メーカー: 開拓社
  • 発売日: 1996/11/01
  • メディア: 単行本
文法理論の諸相 (1970年)

文法理論の諸相 (1970年)

  • 作者: ノーム・チョムスキー
  • 出版社/メーカー: 研究社出版
  • 発売日: 1970
  • メディア: -
統辞理論の諸相――方法論序説 (岩波文庫)

統辞理論の諸相――方法論序説 (岩波文庫)

  • 作者: チョムスキー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/02/17
  • メディア: 文庫
#3963 生徒がもってきた英文和訳問題(2):Z会 Apr. 17, 2019
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#3960 英語の教科書を読むトレーニング Apr. 12, 2019 [62-1 個別指導の実際]

<最終更新情報>
4/14 午後5時25分

 昨日、高3の教科書をつかって読解トレーニング中の高2の生徒から質問があったので、どういう読み方をしているのか分析してみた。当該箇所の段落まるごと引用する。


 Having performed all over the world, Togi sees no deference between the reaction of Japanese and non-Japanese audeiences.  Both Japanese and non-Japanese people feel the same way. People say Togi's music sounds familiar and makes them feel nostalgic.
  VividⅢ p.82


  日本人が書いた英文は、受験英語の影響でこういう分詞構文の使い方が多い。前後関係からhaving~以下の句のほうが時間的順序が先だから、これでいいのだが、ジャパンタイムズを読んでいるとあまりこうした事例にはお目にかからぬ。順序が逆のケースがほとんどだ。主節が先に来て分詞構文が後に来る例が圧倒的に多い。時間的順序を考慮すると使用法としては正しいので、あるいはネイティブの手になる文かもしれない。
 この章は雅楽の東儀さんが話題になっている。この段落の no deference の部分を「東儀は日本人にも日本人ではない人たちにもリアクションは共通していると思っている」と生徒が訳したのだが、意訳のし過ぎと注意した。逐語訳は感心しないが、意訳のし過ぎはときに書き手の意図を無視しかねない。段落全体が視野に入ればこの訳が適切でないことがわかる。no deferencethe same way が呼応しているのである。その点を考慮した適切な訳を別途考えるべき。

「世界中を講演して回っているので、日本人も日本人ではない聴衆もその反応に違いはなく、日本人も日本人ではない人もどちらも同じように感じていると東儀は承知している」

 これはレトリック(rhetoric)である。
 生徒は文章の尖端から齧って逐語的に消化して読んでいるようだ。コンピュータ言語ならBASICのようなもので逐次処理方式である。なれてくると段落全体にさっと目がいき、レトリックに気がつく。塊で読むようになるのだが、その域までまだいっていないということ。たくさん読めば、段落全体にさっと目がいき、適切な訳ができるようになる。
 the same way は文脈から「同じような」という自然な日本語が浮かぶ、そのあとで辞書を引き確認すればいい。辞書にはそういう意味が載っている。学校で英単語暗記に利用している『ユメタン』の知識でwayを「方法」や「道」と覚えていると、それにこだわって適切な日本語語彙がでてこない。
 中学校の英語授業では英語の辞書を使わない、そして高校生になると1年生の時から『ユメタン』が英単語暗記トレーニング教材として使われ、毎週テストが実施されている。そうした指導法の弱点が如実に現れていると思う。英文精読トレーニングはそうした「悪い癖」を矯正することにも効果が大きい。平易な日常語への書き換えや、「大和言葉落とし」がトレーニングの重要項目として設定されている。

 もう一つ、この生徒の苦手な部分がでてきた。それは一つ段落をおいた次のような文だ。

 Togi stresses gagaku's perfection. He says, "The classical gagaku numberes may all sound the same, but they appeal to the cells in our body. Each note correspond with a particular color, season, and direction, and is structured to express something far beyond human emotions.  Gagaku tries to caputure the soul of the universe."

 文学的な表現が入り混じるとやっかいだと感じるようだ。この生徒は文学作品や恋愛物語、推理小説には興味がない。多少興味のある私も、文学作品を英語で読むのはとっても厄介だ、使用語彙数が多くてうっとうしいばかりでなく、日本語の美しい文に置き換えることができるほどの情緒豊かな作文ができないからである。ラフカディオハーンの翻訳で夙(つと)に有名な平井呈一は永井荷風の異能の弟子であるが、彼の訳文を読むとそのすごさが伝わってくる。翻訳とは思えない、そしてその場の情景が脳裏に異様な迫力をもって再現されるような迫真の文が現れる、まさに名人芸と呼ぶにふさわしい。友人の遠藤が著書『明治廿十五年九月のほととぎす』(未知谷、2010年刊)「第二章 ラフカディオ・ハーンの見た日本」で平井の翻訳を引用している。引用された訳文に出遭った瞬間にその力量のほどが了解できた、そして平井の手になる翻訳を数冊買い求めて読んだ。
 平井の師匠の永井荷風の文体は「切れる日本語」と表現するとわたしにはよくわかるのだが、件の生徒にそう言っても、「日本語でなにかが切れるわけはない」ということにでもなろうか。日本文学は深くて豊かな対話を成り立たせるための不可欠な教養なのだ、いつかきっとわかるときがくる。

 閑話休題、件(くだん)の生徒はこの段落の二つ目の単語、stressesのところで躓いた。ストレスという日本語を知っていることが仇となる。目的語になっている perfection という単語もなじみがないので余計に混乱したのだろう、慣れてくれば、つまり量をたくさん読むと動詞と目的語はセットで日本語訳を考える習慣がつく。この生徒は「強調する」という意味を知らなかった。このあたりは電子辞書しか使わぬ生徒と、紙の辞書を使う生徒では大きな差がでてくるのではないだろうか。紙の辞書には冒頭にその単語の意味の概要リストを並べているものがあるので、その全体が視野に入る、つまり記憶の片隅に残るということだ。電子辞書ではスクロールしないとでてこない。
 記憶している単語の意味では文意が通らない、あるいは文脈上適切ではないと思えた時は、紙でも電子辞書でも引けということ。辞書を引く前に文脈からどういう日本語が自然なのか推定しろ、それもトレーニングである。文脈をつねに考慮しながら意味を精確に読むトレーニングをふだんからしていないと、「おかしい!」という勘が磨けない。そういうアンテナの精度をアップするようなトレーニングをした生徒とそうでない生徒は訳文を見たらその学力の違いは一目瞭然である。「ぼーっと読んでいるんじゃねえよ!」と、チコちゃんに叱られます。

「東儀は雅楽の完全性を強調している」
 この文だけでは意味がはっきりしない。英語は抽象的なことを述べたら、次の文でそれを敷衍するような論理運びになっているから、意味を具体的につかむために次を読め。次を読むことで「雅楽の完全性」がどういう具体的な内容をもっているかがわかる。
 noteも引っかかった。知っている単語ほど危ういものだ。音符や楽譜がnoteと知らない生徒が多い。日本語化されて使用頻度の高い単語ほど危うい場合がある。たくさん読めばそういう事例に引っかかるから、勘が働くようになる。Blue Note Recordsという有名なジャズのレーベルがあるのを年配の方ならたいがい知っている。ここでは「音」と訳した。
*blue noteの意味は下記のURLを参照してください、面白いですよ。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1018719540

 「それぞれの音が特定の色や季節や方向性に対応しており、人間の情緒をはるかに超えたものを表現するようにつくられている」「雅楽は宇宙の魂をとらえようとしている」

 このことが東儀さんが言う雅楽の完全性の意味である。完全なものは普遍的であり、人間の情緒の範囲すら超えて遍く(あまねく)存在しているものということ。
 こういう具体的な解説はトップクラスの学力の生徒には好奇心のわく愉しいものとなるだろう。愉しい解説をもう少し続ける。
 深く読むと論理的だが、表面をなぞるだけの読みしかできなければ、非論理的かつ文学的な表現に見えてしまう。文学的な比喩表現はまだこの生徒には馬の耳に念仏である、そういう分野に興味がないからだろうと思う。「宇宙に魂があるなら証明してもらいたい」なんて理屈がでてきそうだ。数学者の岡潔先生がどこかで森羅万象には普遍的な魂があるということを言っていたような気がする。根源的にあるものは魂のほうではないのか、森羅万象はその表れという考え方もできる。森羅万象の存在を素粒子レベルまでさかのぼっていくと、ある確率で現れたり消えたりする不安定なものであることが物理学で明らかになっている。どこから現れどこに消えていくのかあるいはなぜ現れたり消えたりするのかと疑問を呈している。確固たる基礎をもつようにあらわれている森羅万象の存在そのものがその根本をみると不確かなのである。森羅万象はたしかなものではない、無常(常ならぬ)もの、そういうことを繰り返し説くのは哲学である仏教のみ。だからこういうことを話題にするときには大数学者である岡潔先生は表現手段として仏教専門用語に頼らざるをえない。わたしには難解すぎる道元『正法眼蔵』が頻繁に引用される。
 この生徒は文学作品も恋愛小説にも興味がないから、先ほど段落ごと転載したような文章表現に慣れていないので、なんとなく苦手になっているのだろう。少しは文学作品も読めよと言いながら、いやいや解説した。(笑)
 ハラリの『Sapiens』を読んでもそのあたりの弱点は解消できない、でもいいのだ。完璧を目指す必要なし。この生徒はロジックをしっかりとらえ、平易な日本語に訳せたらいいのである。
 高校の英語教科書3年分を使い、教科書の英文をノートの左側に視写させて、右側に日本語訳を書かせ、圧縮された句は生成英文法でシンプルセンテンスへ還元して意味をつかむというような精読トレーニング中である。熟語や重要部分にはノート左ページの英文にアンダーラインや単語を円で囲み付番させている。もちろん対応する番号でコメントをつけるためである、システム開発技術の応用だ。英文はあとからの書き込みのために1行ごとに空けて書かせている。ときどき「大和言葉落とし」という技のトレーニングもしている。「is structured to express something far beyond human emotions」のアンダーライン部分がそうである。「構成されている」という漢熟語でもいいが、すこし硬い。madeでは格調の高さがでないので、ハラリは文章語であるstructuredを選んだのだろうか。
 高1、高2の教科書をすでに終了し、ようやく高3の教科書の82頁、全部で150頁ある、夏休みが終わるころには、きっとハラリを読み始めている。いまはじっくりでいい。読む速度を上げるのは半年先になるだろう。生徒の様子を見ながら、成長段階ごとに設定目標は変わる。

<余談:苦手の英語を克服しよう>
 高校2年生は最近2人入塾したので7人になった。1月の進研模試で学年5番以内が4人いる。7人中6人は10番以内だから、数学はよくできる。ところが英語ができるのは英語の偏差値も学年トップの一人だけ。食わず嫌いで10点以下の生徒もいるので、偏差値を60にアップする英語学習を開始したい。
 全国平均が33点、標準偏差は18点ほどだったはずだから、52点を超えたら偏差値60だ。それほど大きなギャップではない。英語が苦手で塾に来てもさっぱり英語の勉強をしなかった生徒たち数人が、どのように変わるのか、そして何人が偏差値60を超えられるか楽しみだ。
 数学と英語の偏差値の両方が60を超えたら、進学先は結構選べる。意欲のある生徒たちにを別の世界に誘(いざな)いたい。

<桜の木の上で降りられずに凍えそうになっていた猫の顛末>
 100mほど離れたところに住む人が猫を十数匹飼っているが、猫を連れて散歩しながらその家の前までいくと、空いているリビングのガラス戸から中に入っていった。似た柄の猫たちとくつろいでいたので、間違いないだろうと判断した。
 今日わかったことがある。猫は数日行方不明になっており、どこかで死んだと思っていたらしい。猫が帰ってきたので飼い主がたいへんに喜んでいたとのこと。

#3957 猫騒動 Apr. 10,2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-04-10



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明治廿五年九月のほととぎす―子規見参

明治廿五年九月のほととぎす―子規見参

  • 作者: 遠藤 利國
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2010/03
  • メディア: 単行本
 遠藤さんは国際学院大学を卒業してから、早稲田大学大学院哲学科で哲学を専攻した。そのあとテレビ番組のディレクターをしていたことがあるようだ。国学院大学で教えているがそろそろ定年だろう。この本は正岡子規について書いた本である。哲学者が書いた本だから中身が濃いし視点がユニークだが、彼の文体はリズミカルで読んでいて気持ちがいい。
 もう2冊紹介しておきます。福沢諭吉について書いた本。これも名著ですよ。

漫言翁 福沢諭吉―時事新報コラムに見る明治

漫言翁 福沢諭吉―時事新報コラムに見る明治

  • 作者: 遠藤 利國
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2012/07
  • メディア: 単行本
続 漫言翁福沢諭吉―時事新報コラムに見る明治 政治・外交篇

続 漫言翁福沢諭吉―時事新報コラムに見る明治 政治・外交篇

  • 作者: 遠藤 利國
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2014/09
  • メディア: 単行本



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#3880 センター試験過去問+看予備冬期講習テキスト:5人のクラスの個別指導 Dec. 12, 2018 [62-1 個別指導の実際]

 12日夜、外は4時過ぎから吹雪いている。気温は零度付近だから大きな雪が北風に舞っている。朝までに20㎝ほど積もるのだろうか?

 塾用問題集は『シリウス』を使用しているが、学力に応じて、その時のそれぞれの生徒の課題に応じて、自分で問題集を選んでいい。坦々と問題を解き、質問があれば挙手して声をあげる。そういう方式でやっているから、一クラス5-7人くらいまでは丁寧に個別指導が可能だ。
 月曜日(12/10)の7時半から9時までの授業には高3が2人、高1が2人、中2が1人、5人の個別指導だった。高3の一人は、看予備の冬期講習のテキストが届いたので、その英語長文問題をやっている。講習の前に予習しておこうというわけだ。長文と文法語法問題の複合問題で、センター試験長文問題に比べてずっと難易度が高く看護学校受験直前講習には疑問符のつく問題である。たとえば国立看護大学は英文の量はめちゃくちゃ多いが、文自体は平明に書かれていて読みやすい。受験する看護学校の英語の問題はやさしいからこういうレベルの問題をやる必要はないが、納得がいくまでとことんやる意気込みはりっぱ、それでいいと思う。数学のほうが得意だから、数学で高得点をあげることが狙いだ。
 その生徒の質問を捌きながら、もう一人の高3の生徒がセンター試験過去問をやっているので、質問を二つばかり片付けた。10月いっぱいで部活を引退し、翌11月だったかな、高校の先生と相談して専門学校から地方の国立大学へ進学先を変更、そこから学力アップに渾身の力で取り組んでいる。本気でやれば学力がさらにアップすると高校の先生も判断したようだ。どこまで伸びるのか見届けたい。
 中2の生徒の質問がそれらの間に入ってくる、証明問題をやっていた。数学の学力が中位の生徒には証明問題は10題ぐらい選ばせて、繰り返し書かせる。「型」を覚えてしまえば楽になるからだ。塾でやるだけでは身につかない、家庭学習でも何度も繰り返さなければならない。それがこの生徒の課題だ。部活が忙しいのとスマホに時間をとられて家庭学習時間がほとんどとれていない。スポーツで言うと基本メニューを繰り返しやってそれぞれの「型」や技を身につけるのと同じである。ビリヤードでも基本メニューを毎日繰り返しやって、基本技を身につけることが上達の近道である。勉強もスポーツも遊びも、とことんやるとどこかで同じものになってくる。それぞれ上達が実感できて楽しいのである。家庭学習習慣をつけなければ学力がアップできないので、生徒ともお母さんとも話し合ってスマホ使用に制限をつけることにした。家に帰ってきたら親にスマホを預ける、そして数学と英語の勉強をそれぞれ30分間やり終えたらスマホを受け取る。3か月間のトライアルである。
 
 授業の終わり5分前に高3の生徒から2013年度の数Ⅰの問題で質問がでた。問3の問題である。問題文を読みながら黒板に図を描いたら、最初の問題は中3でもできるものだった。どこがわからないの?と訊いたら、作図のところで躓いたとのこと。本文を読みながら描いていったので、作図と最初の問題はOK。ODの長さの求め方を概略説明して、終わりにした。車で迎えに来ているので、あとは家にか行ってからやってみて、わからなければ次回にやろうということにした。
 翌日に授業の途中で同じ問題を高1の生徒にやらせてみたら、すらすら作図して軽快に解いていく。最後の問題の内接円の半径「チ/ツ」のところで手間取っていた。そこまで15分くらい。センター試験レベルなら満点とれるところまで最近4か月で学力が伸びている。
「先生、あとは家でやってくる」
「面積から方程式を作ってやればいい、標準問題だから、1月の進研模試用のトレーニングになるよ」
 センター試験の問題は、基本を問う問題が多いので良問が多い。進研模試の前に数年分解いて、知識をもう一度整理しておいた方がいい。

 この生徒は塾用問題集『シリウス数Ⅰ』と『シリウス数A』を独力で予習方式でやらせている。章ごとに1頁か2頁の解説が載っているが、独力でわからないときだけ質問してくる。学力が高い生徒ほど質問の数が減っていく。問題はひとつもスキップさせない、全問解かせている。センター試験レベルはこの問題集で十分である。いま数Ⅱをやっている。

 学力に問題があって塾へ来る生徒もいる。教科書の問題を全部解説するとか、準拠問題集の問題の7割を3か月ほど解説しなければならないケースもある。そうしても、家庭学習習慣がゼロだと成績が横ばいになる。家庭学習がゼロだと、一週間後にはほとんど忘れて、また一からやり直し、根気がいる。(笑)

 ネットを検索したら、問題と解説が出てきたので、URLと問題を貼り付けておく。
http://examist.jp/legendexam/2013-center/

 左クリックして、ドラッグすると全画面をみることができます。

2013center3q
*看予備冬期講習
http://www.kanyobi.ac.jp/training/college_winter1.html



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<答>

ア 1

イ 0

ウ 3
エ 1
オ 0
カ 5

キ 4
ク 5
ケ 2
コ 4
サ 5

シ 2
ス 1
セ 6
ソ 2
タ 5
チ 6
ツ 5
テ 1
ト 2
ナ 5
ニ ②
ヌ 6
ネ 1
ノ 0
ハ 5
ヒ 1
フ 0
ヘ 5
ホ ②



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#3879 長文読解:生徒からの質問(2) Dec. 11, 2018  [62-1 個別指導の実際]

<最終更新情報>
12/12夕方 太宰治の古典のリライト物に関する追記
      同時進行で中3と中1の数学解説が始まる


 高1の生徒が4時15分に来た。いつもより早いので、何か質問ができたのだろうとピンときた。土日にやったZ会の英語長文問題をもってきて質問があるという。問題本文はB5版に1ページの分量、さっぱりわからないという。じゃあ、一緒に読んでみようかと言って、理解できないところに焦点を当てながら読み始めた。1896年開催の第1回アテネオリンピックが題材。

 例えば、こんな文の意味が分からないという。
 The game was nearly over.

 どうしてか問うと、nearlyの意味がわからないからと答えた。知らない単語に焦点が合って、それ以外の知っている単語、簡単な文全体が見えなくなっている様子、試しにnearlyをカットして、黒板に書いた。
 The game was over.
  こうするとわからない単語は一つもない。付き合っていた女が男にあるいは男が女に別れを告げる場面をわたしは想像してしまうが、生徒が脳裏に描いたのはぜんぜん違ったシーンだろう。すぐに意味がわかったのである。わたしはnearlyを外しただけ。
 大人の恋をしたことのある人とそうでない人はこの文を読んだ時に湧き上がる情感やシーンがまるで違うだろう。高1でも女の子たちの1割は大人の恋の領域に踏み込んでいるが、男の生徒は子どもた多い。テレビ観戦していたサッカーの試合が終わった場面を思い浮かべるくらい。(笑)
 つぎに、nearの意味を訊いた。この生徒は先週行われた定期テストで英語は2科目とも満点だから、もちろんよく知っている。
 
中2の教科書Sunshineの11頁に、「We visited the Korean Folk Village near Soul.」という文がでてくる。家で教科書の音読を徹底していたからしっかり覚えている。

 nearly=near+ly

 水分子が水素と酸素に分解できるようなものだ。文意は「オリンピックゲームは終わりに近かった」である。すでに終りに近づいているのに、開催国のギリシアには金メダルがまだなかった。ギリシア国民は残念で、悔しくて、地団太を踏んでいるのである。ギリシア国民の一人になったつもりで読むと、共感できる。つねに登場人物になったつもりで読むとたのしくなる。

 lyは副詞語尾、形容詞にlyをつけると副詞になる。
 具体例を挙げていく。
  beautiful+ly
  bright+ly(明るく、輝いて、鮮明に)
  dark+ly(暗く、黒ずんで、陰気に)
  wise+ly(賢明に、ぬけめなく)
  clear+ly(はっきりと、疑いなく、わかりやすく)
  sad+ly(悲しそうに、悲し気に、残念なことには)
  silent+ly(静かに、黙って)
  noisy+ly=noisely(大きな音をたてて、騒々しく)
  convenient+ly(便利よく、好都合に)
  light+ly(軽く、ちょっと)
  heavy+ly=heavily(激しく、多量に、重そうに、濃密に)
      fluent+ly(流暢に、すらすらと)
  complete+ly(完全に)
  extreme+ly(極端に、とても)
  absolute+ly(完全に、まったく、絶対に)
  honest+ly(誠実に、まじめに
  un+healthy+ly=unhealthily
   彼は不健康な暮らしをしている⇒He lives unhealthily.

 よく知った単語ばかりだろう。副詞語尾lyに限らず一つの単語に接頭辞や接尾辞を付加することで一群の派生語が生ずることについては何度も解説しているが、長文試験問題のなかに組み込まれたときに、にわかにわからなくなるようだ。知っているのであるが、使えない。どうすれば使えるようになるのか、これらの知識を実践で使うトレーニングが足りないだけ、つまり長文をたくさん読めばいいだけのこと。

 この文章に限っては、次のセンテンスを読めば、コンテキスト(前後関係)からも意味が類推できる。文脈読みができるようになると、なんてことはないのだ。

 もう一つ事例を紹介しよう。この文はアテネの羊飼いスピリドン、そして沿道で応援しているアテネの村人になったつもりで共感しつつ読んでもらいたい。スピリドンの高揚感や応援するアテネの農民のドキドキ感が伝わってきたらすばらしい。

 Several minutes later, Spyridon Loues jogged by. Small and thin, Spyro was a 25 year-old shepherd from the hills near Athens. "Faster!" the anxous villagers urged him on. "The foreigners are far ahead." he said calmly.

  どこが理解できないのか訊いてみた。最初の文のbyがどうしてここに置かれているのか理解できないという。思考の焦点がbyにあってしまって、他が見えないのである。文意をつかむことが二の次になってしまっている。#3877で書いたが、一度焦点が絞られると、その周辺が見えなくなる、そういうときはbyへの焦点を外してしまうのがいい、「消す」のである。これも黒板に次のように書き換えて意味がわからないか訊いてみた。

  Spyridon Loues jogged by Several minutes later

 語順を元に戻して見せただけである。「S+V+...+場所+時間」が英語の基本語順、この文は時間を表す句が倒置された文なのだ。この文をみればbyの正体がはっきりわかる。
 byのこの用法は英字新聞ではよくお目にかかる。株価が24000円から24200円にアップすると「200円だけ」あがったという言い方をする。'by 200 yen' である。スピリドン・ルイスは数分遅れで走ってきたのである。runを使わずjogを使っているところにも注目してほしい。スピリドンは落ち着いてマイペースで悠然と走っている、この時点で勝利を確信していることがrunではなくてjogを使ったことで明確になる。このように書き手は言葉を選んでいる。そこも英文を読む楽しみの一つである。

 2番目の文はすんなり読んだ。3番目の文の「the anxous」が訳せないという。簡単な名詞句をつかまえそこなっていた。「the villagers」という名詞句に形容詞 anxious が挟まっただけ。定冠詞はvillagersを限定している。アテネ近郊の農民である。農民は都市の市民の奴隷だった。日本のような自作農はいない、村も自治権がない。スピリドンもそうした農民の一人である。優勝は名誉、農民たちはおらが村のスピリドンに何が何でも優勝してもらいたい。先頭をフランス人が走っており、2番手には外国人3人が続いていた。スピリドンはその数分あとを走っているのである。

"Faster!" the anxous villagers urged him on. "The foreigners are far ahead." he said calmly.

 この文中の「urged him on」のonは圧力のonである。台の上に丸い大石が載っている場面を想像してもらいたい。重くて天板が曲がり始めている、そういう「圧力」がonである。村人たちは「もっと頑張れ、急げ!なにがなんでも優勝してくれ!」ち絶叫している。ギリシアにはそれまで金メダルがひとつもない。スピリドンは声援に応える、「外国人たちはずっと前を走っている」と。勝ちを確信して冷静なのである

 芥川龍之介は日本の古典文学を題材にしてリライトしている作品がいくつもある。語彙が豊かで文章が上手だから、原典よりも良い。『鼻』は宇治拾遺物語巻第二「七 鼻長き僧のこと」がオリジナルである。「昔、池の尾に善珍内供といふ僧住みける。…」ではじまるが、芥川のほうがずっとたのしい。吸血鬼女『クラリモンド』も一人称を「わしが…」と繰り返し訳出しているのには閉口するが、それをのぞくと文はすばらしくいい。フランス語原典をラフカディオ・ハーンが英訳したものを学生時代の芥川が翻訳したようだ。それで、学生っぽい翻訳だと感じたわけだ。
 太宰治にも古典のリライト物がある。『御伽草子』から「瘤取り」「浦島」「カチカチ山」「舌切り雀」の4編が『太宰治全集7』(昭和33年筑摩書房初版)に収載されている。空襲のさなか、防空壕に退避して子どもたちに即興で昔話をするという、趣向である。これが傑作で、リライト物というよりも太宰のオリジナル物と言ってもよいぐらいに改作されている。文庫でも出ているだろうから、一度読んでみたらいい。この太宰全集は根室の古書市で手に入れたものである。「定価290円」と印刷してあり、ボランティアで運営している古書市だから定価の1割の価格で販売していた。安すぎるので数千円寄付させてもらった。最終日に古書市をのぞいたのだが、太宰全集が売れ残っていた。全集がわたしを呼んでいるような気がして、全部抱えてレジ担当のところへ運んだ。古書市の収入は市立図書館の書籍購入代の足しになる。2度、本を持ち込んだ。単行本の時代小説を50冊ほど処分した。数年のうちに3000冊くらい処分しなければならない。
 文豪も高校生も、文意を理解したら、自分の語彙の中から言葉を選んで文を作る、ようするに語彙の豊かさと作文の巧さが訳文に明瞭に出てくるのである。だから、英文を読むには日本語語彙が豊かな方が、いいにきまっている。世界文学全集で英米文学者の訳した作品がしっくりこないのは、その多くがものかきのプロではないからだ。

 半ばまで一緒に読んだところで、4時45分に中3と中1の生徒、そして高1の生徒がもう一人現れ、それぞれ数学の問題をやり始める。中3の生徒が顔をあげてニコニコしているのは、質問のサインだ。11月から来ている、円周角と中心角、そして平行線と相似の問題をやっているのだが、苦手だから、3題に2題は解説の必要がある。こうしてやっているうちに独力でやれる問題が増えていく。学校の授業が分かるようになってきたと嬉しそう。わからない授業を聴くのはつらい、勉強がつらいものになったら、成績は負のスパイラルで下降し始める。結局、内容が理解できて、独力で問題が解けるようになれば勉強は楽しいものだと体験させてあげることが塾先生の役割。
「質問した問題はチェックマークつけるの忘れないように、マークを付けた問題は今日か明日、必ずやってみて、一週間後にさらにもう一度ね。そこまでやれば試験でできるようになっているから。」
 中1の生徒にも質問がないか訊く、
「質問はあるかな?」
「ありません」
 作図問題をやっているので、3タイプの作図法(①角の二等分線、②線分の垂直二等分線、③点Pから直線lへの垂線、それと正三角形の作図)を解説しておく。基本を繰り返しやらせて完璧にしておくのが第一段階の狙いである。学力テスト問題は二つ組み合わせて解く問題が多い。だから、3種類の作図は考えなくてもやれるようにしておく、頭でなくて手で覚える。頭はどのやり方を組み合わせたらいいのかに使えと伝える。
 あとから来た高1の生徒は三角比の問題をやっている。単位円での一般角の解説はまだ学校の授業ではやっていない段階、この生徒はまだ慣れないので昨日質問のあった問題の類似問題で再度質問あり。辺の長さを計算する問題だが、準拠問題集の解説通りだとピンとこない生徒が多いので、方程式にしてしまうと、考えないで簡単に計算できるので、再度、黒板でやって見せる。この段階だと、三平方の定理を使いたくなるが、三角比でsin、cosになれなければならない。2年生でやる三角関数の序曲なのだから。この生徒はピアノの名手である。11月の進研模試では偏差値を大幅にあげた。予定していたライン(全国偏差値50)へなんとかとどいたが、さらに同じだけ偏差値をアップしたい。2段階でそこまでもっていくというのが、生徒との約束だ。1月に進研模試がある。冬休みは苦手の英語の勉強で大わらわになる。やった分だけ結果となってでてくる。

 他の生徒の質問に答える合間に、Z会の長文問題をもってきた高1の生徒に言う。
「残りは自分でやってみたらいい、やれそうだろう?」
「はい、できそうです、やってみます」
 いい返事だ。(笑)
 べったり教えてはいけないのだ。依存心を植えつけることになる。目標は独力で予習し、難易度の高い問題を考え抜くことができるようになること。

 長文読解を通じてこの生徒につかんでもらいたいことが三つある。
①すでに知っている知識を使うことに慣れること
②意味不明の時は焦点を外し、もう一度先入見なしに文を眺めること、そしてわからなければ先を読み進むこと
③登場人物に共感をもって読むこと

 この生徒は小説や文学作品の類はつまらないと言って読まない。たとえばこういうこと。
 「枯れ枝に 烏の止まりたるや 秋の暮」
 この芭蕉の句を読んでも、「それで?」という反応なのである。秋の夕暮れに葉っぱを落とした枯れ枝に真っ黒いカラスが一羽とまっている、そういう日本的情景に感受性がない。自然の移ろいに共感するという日本的情緒が薄いのである。
(短歌や俳句や古典文学、古典芸能にになじみが薄くなっている。落語、講談、人形浄瑠璃、能、浪花節、こういったものから子どもたちがどんどん離れている。60年前とは世の中がまるで変ってしまった。テレビがある、コンピュータが個人で使える、スマホがある。団塊世代が10歳のころは、ゲルマニウムラジオで落語や講談、浪花節を聴いていた。人情噺で日本的情緒に包まれるようにして心が育った。いまは一つもなくなってしまったが、映画館が根室に6つもあって、よく見に行った。8割は時代劇だった。朝日館、北映、根室劇場、中央劇場、銀映、東映の6つ。朝日館では小学生の時にベンハーをみた。ヒッチコック作品に怖いシーンが記憶に残っている。階段につけられた昇降用の電動椅子がスーッと降りてきて1階で止まると、その瞬間に首がゴロンと床に転がったシーンは衝撃だった。「愛と死を見つめて」は根室劇場、彗星が地球に向かっているので、地球の軌道を変えるために南極に巨大ロケット噴射装置をつくるなんてSFは宝田昭主演で、北映に来て上演前に挨拶していた。60年で日本はまったくかわってしまった。だれもいまを想像できなかっただろう。)

 この生徒は5年間で12冊の音読トレーニングを消化しているから、論説文読解には大学生並みの読解力があるが、なにぶん読んでいる量が少ない。
(最近は福沢諭吉『福翁自伝』を読み終わり、山本義隆『近代日本150年』を読み始めた。一流の物理学者である山本のこの著作は、知の職人としての著述の技術を如何なく発揮したものである。)
 登場人物に共感をもって文学作品や小説を読むようになればと思いながら、文を味わえるように英語長文の解説をしている。楽しみ方がわかれば英文も日本語で書かれた文学作品も同じであるのだが、こちらの思ったようにはならぬ、それでいいのである。塾先生は折に触れ、機会をとらえて文章の楽しみ方、味わい方を伝授するのみ。

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原文と現代語訳と注釈が同じページに三段組になっていて、参照しやすい。値段は高いが、古典に親しむことのできる企画である。こういう企画の古典全集を期待していた。


新編日本古典文学全集 (50) 宇治拾遺物語

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  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1996/06/20
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羅生門・鼻 (新潮文庫)

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  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/10
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ザ・太宰治(上)

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  • 作者: 太宰 治
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太宰治全集〈7〉 (ちくま文庫)

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  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1989/03/01
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 筑摩書房から10000円ほどで太宰治全集がでているので、これを買って読んだらいい。第7巻だけでも10000円の値はある。

太宰治全集 全10巻セット (ちくま文庫)

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  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1994/03/01
  • メディア: 文庫

 未就学児への読み聞かせ、あるいは音読のお手本として利用してみたらいかが?

太宰治作品集〈8〉お伽草紙 〈瘤取り〉 (文芸カセット 日本近代文学シリーズ)

太宰治作品集〈8〉お伽草紙 〈瘤取り〉 (文芸カセット 日本近代文学シリーズ)

  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1988/06/06
  • メディア: 文庫



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#3877 個別指導の実際:英語 生徒の疑問 Dec. 9, 2018 [62-1 個別指導の実際]

 今朝(12/9)の最低気温は-7.2度だった、もちろん今冬一番の寒さだ。二日連続でやった雪かき作業は完了、いい運動になった。観光バスが家の前にとまってバス停のために除雪したところから乗客を降ろす。しばらくすると東根室駅まで歩いて行って写真を撮って戻ってくる。観光バス会社やツアー客のみなさんも、かまわないからどんどん利用してください(笑)

 ニムオロ塾は一クラス7人までの個別指導、生徒の学力に応じた指導を心がけている。学力だけでなく性格や思考タイプも多少は考慮する。生徒が本来もっているものがあるので、そこになるべく手は入れない。伸びる力は生徒自身の中にある。
 前置きはこれぐらいにして、本題に入ろう。
 学力の高い高校1年生に9月から、高校2年生の英語の教科書「VividⅡ」を使って読解トレーニングをしているのでやりかたの説明から始めたい。そのあとで具体的な事例を紹介する。
 「ノートA」に左側に英文を視写して、右側のページに和訳を書かせている。試写するときに1行ごとに空欄をつくってもらう。ときどき重要単語のマーキングや意味の書き込み、読みにくい単語に仮名を振る、連語にマーキングする、SVOCを記入する、修飾語に波線を引く、識別番号を付番するなど、必要に応じて書き込むための余白を確保したいからである。「ノートB」も用意させている、構文や文法や単語解説が書き切れないことがあるからそのための補助ノート。「ノートA」に識別番号をつけて、それに対応する番号を「ノートB]にもつける。相互参照できるようにしておく。
 英文和訳なんて古臭いと思うだろう、その通りである。福沢諭吉「適塾・英語指導方式」と似ているからうんと古臭い。『福翁自伝』を読んでもらえば福沢がやったオランダ語と英語の指導法がわかる。
 英文が読めているかどうかをどのような方法でチェックしたらいいかという問題があるが、書かれた訳文を見たら一目瞭然である。自分で訳文を書いてみないとあやふやな部分が明確にならぬ。だから、訳文を書かせて読解力の向上度合をチェックする。こなれた日本語の文にするには作文能力も要求される。英語の単語をそのまま日本語にして並べても、日本語の文章にはならない。辞書に載っている言葉では適切な日本語にならない場合が結構な頻度で出てくる。自分の語彙の中から最も適切と思える言葉を選んで文章にしてみる。こうして脳内のイメージをノートに対象化することで、読解力がはっきりあらわれる。
 書き手は脳内のイメージを言葉に紡ぎだすから、読み手がそれを自分の脳に正確に再現できてはじめてその文章を理解できたと言える。発信されたイメージと受像したそれが著しく異なっていたら、書き手の書き方がまずいか、読み手の誤解のいずれかである。

 具体例で示したほうが早い。Lesson 10 に小惑星探査機はやぶさの話が載っている、そのPart-3の最後の段落部分の意味がわからないと、質問があった。書きかけの訳文をみたがなるほど頓珍漢、数回書き直してみたようだ。自分でどの英文が理解できていないかわかっているだけでも、普通の学力レベルの大学生よりはましかもしれぬ。この生徒は、独力で英文和訳をやって、おかしいと思う箇所だけを質問する、それでいい。がんがん自分で読んで、理解したことを日本語作文してみたら腕が上がる。(会話文の音読トレーニングは、家でやったらいい。それはそれでやるべし)

 Only three months before Hayabusa's returen, three of the four ion engines stopped. The probe didn't have enough power! It seemed to be unable to return to Earth. The members solved this problem again. Hayabusa had the good parts of each ion engine combined, and it could keep going.

 この段落の最後の文が問題だった。
 はやぶさは2003年5月に打ち上げられた小惑星探査機(probe)である。標的の小惑星は「いとかわ」、2007年に地球へ戻ってきて大騒ぎになったから記憶している人も少なくないだろう。しかし、高校1年生にとっては4歳か5歳の時の話だから知っているわけがない。
 数々の故障を乗り越えて標的である小惑星からサンプルを採取して地球へ帰還した物語は感動的である。技術者がお利口だった。不測の事態を予測して特別な仕掛けをしておいたのである。 そういう周辺知識があれば意味をつかむのたすけになる。

  Hayabusa had the good parts of each ion engine combined,
 
 生徒はこの部分が何を言っているのかわからないという。細かくいうとhadとtheとpartsとcombinedのところで混乱していた。「had ... combined」だと思い込んでしまったことが混乱の第一歩。はて、ドイツ語は教えた覚えがないのだが…、そこに思考の焦点があってしまうともうほかのところが見えなくなる、ダメなときは頭の中の黒板の文字を消すように、考えていることを消してみたらいい。どうやってやるのかって?慣れたらできるようになる。集中よりもそれを解除するのは難しい技だが、これを習得できたら脳の使い方が違うから、たいていの問題はなくなる。先入見を外して文章を読むことができる。数学の問題でも同じ脳の使い方ができる。こういう脳の使い方に習熟すると学力は飛躍的にあがる。
 息をゆっくり吐き切ることに意識をおいて数回呼吸すればいい、そうすれば消せるようになる。それでだめなときには、翌朝もう一度見たらいい、この場合は消すのではなくて、リラックスすることで「消える」のです、焦点がどこにもあっていない状態といえばわかるかな、そうだよ、ぼーっとしているときの状態。「集中」と「ぼーっとしている」状態を、意識して切り換えるトレーニングをしてみたらいい。間をつないでいるのは呼吸だよ。呼吸に意識を集中することで切り換えることができるようになる。だれかと議論しているときにも試してみたらいい。

 この文章はとっても簡単で、骨格は、次の二つだけ。

 Hayabusa had the good parts.(やはぶさには故障していない部品があった)
 The good parts of each ion engine [was] combined. (各イオンエンジンの故障していない部品)はつながっていた)

 こうして simple sentences に分解すれば中学生でもわかる。parts 以下は parts の説明をしているだけ。 combined は前にある名詞の ion engine の説明にすぎない。後に続くものは前のものの補足説明である。たくさん読めばそういうことが自然にわかってくる。意味がとりやすいようにスラッシュを入れてみる。

   Hayabusa had the good parts /of each ion engine/ combined,

 こうは読んだが、この文は二通りの読み方ができる。
   1.the good parts of each ion engine [was] combined,
   2.each ion engine [was] combined,

 つながっているのは4基のイオンエンジンの故障していない部品なのか、4基のイオンエンジンそのものなのかということ。わたしは「1.」で読んだ。大した違いはないので、ここではどちらでもいい。
 細かいことを言うと、 the parts は定冠詞がついていて複数だから、はやぶさのイオンエンジンの数ある部品の内の生きている部品、つまり故障していない部品を指している。そしてこれらの部品をつないでいるものを遠隔操作することで、止まっているエンジンの内の一つを動かす。abcdの四つのイオンエンジンのaが生きているとして、bとcの故障していない部品をdのエンジンにつなぐというようなことをやったのだろう。四基のイオンエンジンがどのようにつながれているのかには本文には言及がない。専門的ない合いようだから端折ったと思われる。
 この段落で書き手が伝えたいことは、帰還の3か月前に「はやぶさ」のイオンエンジン4基の内3基が故障し、推力不足で地球へ帰還できない事態が発生した、なんとしても故障したイオンエンジンの一つは動かさなければならないのだが、それを3人の技術者が解決した。故障していない部品を何かを経由して使うことで停止していた1基のエンジンを稼働させ、2基のイオンエンジンの推力ではやぶさ帰還を成功に導いたということ。
 「4基のイオンエンジンをつなぐ回路が組み込まれており、3基のイオン・エンジンの故障していない部品を組み合わせて1基動かしたのである。だから and it could keep going(飛び続けることができるようになった)。この段落の文意はそういうこと。」
 「この文章だけから解釈できるのはそういうことだが、的を外していたらいけないから確認してみたら?」
 「…」
 「スマホではやぶさを検索してどうやって帰還したのか調べてごらん?」
 「やってみます」

 すぐに調べて、「わかった、そういうことだったんだ」と納得していた。こういう時にスマホは便利がよい。検索キーをインプットしてすぐに必要な情報をみつけて読んでいた。
 4基のエンジンをつなぐクロス回路があって、1基のエンジンに他のエンジンの回路をつなげて動かしたのである。2基のエンジンが動けば、地球へ帰還する推力が確保できる。しかし、推力は当初予定よりも小さくなるので飛行時間がかかることになる。
 英文を読んで理解したとして、それが正鵠を射たものであるかどうかをネットで調べて確認するというスキルも身につけてほしいと思う。大学生になってからも、社会人になってからも不可欠なスキルである。こういう指導は、マンツーマンでなければでなかなかむずかしい。教師には学習上の相談に乗って、生徒自身の能力やスキルを伸ばすというメンターの役割もある。

 ほかには問題がなかったのか念のために訊いてみたら、もう一つ疑問があった、この段落の冒頭の文である。
 Only three months before Hayabusa's returen, three of the four ion engines stopped.

 生徒はこの段落の冒頭の句が意味不明だといった。英文を読みながら、時間軸上に様々な事実が出てくる都度、正確に事実を並べなければならない。この句は4基のイオンエンジンの内3基がその機能を停止したのがいつなのかを説明しているのだが、それは「はやぶさの帰還のわずか3か月前」と書いてある。これをライターがこの文を書いている3か月前と理解して、なんだかわけがわからないといっていた。解釈が外れているから脈絡が頓珍漢になる。2003年5月の打ち上げから、2007年の回収予定まで4年間のスケジュールの最後の3か月に生じたのである。論理的に文を読むことに慣れないといけない。たくさん読むうちに、時間に関する情報を頭の中で整理しながら読めるようになる。

 ウィキペディアの説明を転載する。
*https://ja.wikipedia.org/wiki/はやぶさ_(探査機)
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はやぶさは2003年5月に内之浦宇宙空間観測所よりM-Vロケット5号機で打ち上げられ、太陽周回軌道(他の惑星と同様に太陽を公転する軌道)に投入された。その後、搭載する電気推進イオンエンジン)で加速し、2004年5月にイオンエンジンを併用した地球スイングバイを行って、2005年9月には小惑星「イトカワ」とランデブーした。 約5か月の小惑星付近滞在中、カメラやレーダーなどによる科学観測を行った[注釈 2]。次に探査機本体が自律制御により降下・接地して、小惑星表面の試験片を採集することになっていた。 その後、地球への帰還軌道に乗り、2007年夏に試料カプセルの大気圏再突入操作を行ってパラシュートで降下させる計画であったが、降下・接地時の問題に起因する不具合から2005年12月に重大なトラブル[注釈 3]が生じたことにより、帰還は2010年に延期された。 2010年6月13日、サンプル容器が収められていたカプセルは、はやぶさから切り離されて、パラシュートによって南オーストラリアのウーメラ砂漠に着陸し、翌14日16時8分に回収された[4]。はやぶさの本体は大気中で燃えて失われた。 カプセルは18日に日本に到着し、内容物の調査が進められ、11月16日にカプセル内から回収された岩石質微粒子の大半がイトカワのものと判断したと発表された[5][注釈 4][注釈 5]
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 高校2年生の教科書だから、文は平易に書かれており、使われる単語も基本単語に限定されている。高校3年生の教科書を読んでも語彙力の飛躍的な拡張は望めない。基本単語で書かれているからだ。
 英字新聞なら、ライターは科学の専門家だから、クロス回路の解説がかならず書かれるだろうし、イオンエンジンの仕組みも詳しい解説が載る。使用語彙も範囲がはるかに広くなる。

 ネット検索で調べてみたら、古いデータだが、根室高校が使っている第一学習社の「Vivid」シリーズは3冊で使用語彙数1917語下記論文p.74参照である。ちなみに英英辞典のLongmanは2200語の語彙数で各項目が定義されている。高校英語に比べると英字新聞で使われる語彙数は圧倒的に多い、掲載記事の各分野の専門家が執筆するから出てくる語彙数は数万ある。
*高等学校英語教科書の語彙 2007年
http://www5d.biglobe.ne.jp/~chujo/data/Koukoutext.pdf

  この高1の生徒は12月中に2年生の教科書を読み終わり、正月から3年生の同じシリーズの教科書をやるスケジュールだ。予定通りやりきるだろう。4か月で高3の教科書を同じ方式でやるつもりだ。語彙が多少増えるだけだから問題なしだろう。
 英文を読んでつくりあげたイメージを適切な日本語語彙を選んで文章にする、こなれた日本語に「作文」させる。電子辞書を引いて訳語を並べても「日本語の文」にはならない、最近はずいぶんこなれた日本語が書けるようになってきた。
 英文を理解しているかどうかは、英文和訳した日本語の文を見ないと判定がつかない。読みの深さも書かれた日本語の文にはっきりでる。こうして精読ができるようになれば、あたまから英文を速読するトレーニングへ移行できる。いい加減な読みで速読訓練したって、文章のレベルがあがればとたんに読めなくなる。
 高校3年生用の教科書が終わったら、1000-2000語レベルの簡単な読み物を利用した速読トレーニングと語彙数を増やすためにジャパンタイムズ紙の精読トレーニングを併行してやる。大学院入試でも通用する英語読解力をものにすることが目標である。すべての生徒がこういうわけにはいかない。それぞれの生徒の学力に応じた指導になる。同じものを使っても解説は違ったものになる。

 この生徒は英文を日本語の文に置き換える作業を通して、日本語語彙が多くないとこなれた訳文にならないことを痛感している。ときどき「大和言葉落とし」を命ずることがある。辞書の訳語にとらわれず、なめらかな日本語にするのは、なれるまでは脳みそを絞り出すように和訳を推敲しなければならない。
 中学時代は定期テストでも学力テストでも英語が100点のことはなかったが、高校生になって今回の定期テストでは英語が2科目とも100点である。だが、進研模試の英語は語彙数と読解速度が追い付いていない。半年先にはセンターレベルの問題量と難易度なら9割以上の得点になるだろう。しかし、そんなところが目標ではない。
 この生徒は10月下旬に初めて漢字検定を受験、いきなり2級である。ハードルは高いが、良書12冊をとりあげて五年間音読トレーニングしたから、読める語彙はとっくに2級レベルと判断した。あとは書けるかどうかだった。2級用漢字検定問題集を2回やるように指示しただけ。一月でやり切り、178点で合格している。根室高校全学年で今回5名が2級合格したという。こんなに多いのは珍しいらしい。11月3日の進研模試では数学の全国偏差値が85を超えた。生活時間の使い方がとっても上手になったところが中学生の時とはっきり違う。

*小惑星探査機「はやぶさ」イオンエンジンの仕組みについては下記のURLをクリックしてごらんください。
http://cosmolibrary.com/宇宙探査/イオンエンジン/ 

 イオンエンジンが出てこない場合は「サイト内検索」のボックスに「イオンエンジン」と入力してください。



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