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#3954 ハラリと大数学者岡潔 Nar. 30, 2019 [44. 本を読む]

 毎年2週間ブログやFBから離れることにしています。習慣性が強くなるのでね、お休みというわけ。(笑)

 東京へ行っても電車に乗るのは一度だけ、根室へ戻るときに羽田へ向かうのに電車を利用しました。羽田から聖跡桜が丘駅前までは直行便のリムジンバスです。体力がないので電車に乗って移動するのはきついのです。
 京王線の電車でふと向かい側の席へ目をやると、6人全員がスマホをいじっていました。スマホはいまや人間の身体の一部と化したようです。これを人類の進化とみるか、AIの端末化するトレーニングとみるかは意見の分かれるところでしょう。

 本屋へ行ったら、平積みされた数学者岡潔先生の本が目に入りました。森田真生編『数学する人生』(新潮文庫)、何か呼ばれた気がしたのですぐに買いました。こういうときはあとから理由がわかるから、勘に従うことにしています。
 中を見たら、大数学者岡潔先生(1901-1978)が1971年春に京都産業大学でやった「最終講義」のテープを遺族から借りて原稿を起こし編集したもの。

 最近、ハラリの著書『Sapiens』を弊ブログで3回とりあげましたが、ハラリはこの著書を四つのパートに分けています。
 ①認知革命
 ②農業革命
 ③人類の統一
 ④科学革命

 こうして並べると三番目に違和感が湧きますが、人類史を考察するうえで、③は不可欠な視点であることが読めばわかります。英文の部タイトルは
「Part Three The Unification of Humankind」

 (ハラリのこの著作はkoderaさんが提唱する四項目箇条書法の構成になっています)

 二番目の農業革命によって、畑が広がっていっただけでなく羊や豚そして牛、鶏などの家畜化も進みました。これらの動物には知能もあるし、感情もこころもある。農業革命は人間以外の動物を家畜と野生動物に分けたということになるでしょう。
 同様のことが、人類に対しても行われています。Sapiensというラテン語の元々の意味は「賢い者」という意味であり、Neanderthal「野蛮な者」と対置されます。遺伝子解析の結果から現生人類はホモサピエンスとネアンデルタールの混血です。日本人にはネアンデルタール人の遺伝子がいくぶんか濃いというのは興味のわく事実ではありませんか?岡潔先生は日本列島に人がすみ始めてから30万年と言ってます。東アフリカでホモサピエンスが進化し始めたのが7万年前です。


 ところで、鶏は狭いゲージに閉じ込められて、ベルトコンベアで運ばれてくる餌をついばみ、運動することなく肥育され、卵を産み続け、屠殺されています。羊や豚や牛も似たり寄ったりの肥育がなされています。これらの動物は人類総数よりも数が多い。感情や心をもつ哺乳類がこういう劣悪な環境下で飼育され、屠殺されて人間の食料となっています。具体的に飼育をみていくと、乳牛がとってもかわいそうです。この部分はハラリの本をお読みください。
 いずれ、野生動物はいなくなり、動物園でしか見れなくなりそうです。森は畑や果樹園、ゴルフ場と化し、これからも野生動物の生息環境は次々と消滅していきます。地上には人類と家畜ばかりということになれば、そういう単純な生態系で人類が生き残れるだろうかという疑問がわくのは当然でしょう。生態系の維持には「生物多様性」が不可欠です。

 農業革命以前は狩猟採集生活だから、人間はたくさんの種類の食べ物を採集して食べていました。農業革命以後の食卓は様変わりして、栽培した穀類や野菜や果物と家畜の肉がほとんどを占めています。

 岡潔は動物本能である自他弁別本能や無明の表れである自我本能を抑止すべきだと強く主張しています。企業経営では「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」という商道徳で日本人は自我本能を抑止してきました。取引相手も従業員も同じ人間、関係者それぞれが幸福になるような利潤追求に理想を見ていたのです。
*『日本の国という水槽の水の入れ替え方』p56-58「向上の折り返し点」参照

 欧米の経営とはまったく思想が違います。20年間で日産から380億円もの収入をほしいままにしたカルロ・スゴーンのやり方は日本の伝統的な経営思想とはまっこうから対立するものでした。カネ、カネ、カネ、自分さえよければいい、日本人の大企業経営者にもそういう自我意識に抑制のきかないタイプが増殖しています。どうやらカルロス・ゴーンは日本の大企業経営者に禁断の扉を開いてしまったようです。
 官民ファンドの「産業革新投資機構」の社長に三UFJ菱フィナンシャル・グループの副社長であった田中正明氏を予定していましたが、報酬がⅠ億円であることがすっぱ抜かれて、世耕経済産業大臣は大慌て。報酬を3000万円に減らしたら、役員全員が辞任し振出しに戻っています。20年前までは大企業でも社長の報酬は3000万円が相場でした。強欲な経営者が増えたということです。
*毎日新聞ニュース:「役員報酬3000万円前後に抑制 経産省が官民ファンドの新運営方針公表
http://mainichi.jp/articles/20190326/k00/00m/020/268000c

 自他の区別はあって当たり前だが、そこには感情をもつ動物への共感もなければならぬということになります。岡潔先生はそういう智慧を平等性智と名付けています。

<言語と無意識>
 西欧の言語には冠詞があるが中国語にも日本語にも冠詞はありません。不定冠詞aの役割は自他を区別するもので、袋のような役割をしています。袋の外と中を区別する機能であると同時に他の袋と区別する役割も果たしています。どうやら冠詞はインド・ヨーロッパ語族に共通の機能のようですね。英語にもフランス語にもドイツ語にもイタリア語にもスペイン語にもロシア語にも冠詞はあります。
 言語を利用するときに常に袋の中と外を区別することで、他の袋との共通点への意識が薄くなってしまうのではないでしょうか?
 憐憫の情とか惻隠の情は他者への共感をベースにしなければ生まれない感情です。日本人は野や山にも神社の杜にも、動物たちにも自然に共感をもつようにできています。
 家畜の飼育環境を告発するハラリには平等性智が働いている、西洋人には稀有な人です。

 西洋の人々は家畜を屠殺することに痛痒を感じないのに、野生の哺乳類を捕まえ殺して食材とすることには強い嫌悪感を表明します。クジラやイルカが好例ですが、日本人には不思議です。家畜と野生動物を弁別しているからでしょうが、じつはどちらも感情をもった同じ動物なのです。クジラやイルカ漁に反対している人々には平等性智が働いていません、無明から生ずる自我本能や動物本能である自他弁別本能に操られているように見えます。


 生き延びたいという自我本能や自他弁別本能から平等性智への向上は、岡潔の視点からは人類の精神やこころの向上という階梯だが、そういう視点からsapiensを読み返したら、また違う景色が見えてきそうです。数英の偏差値が80を超える高校生用の教材に夏ころから取り上げますが、そうした平等性智の視点からsapiensをどのように読み解けるのか議論できたら楽しそうです。対象の生徒は五年間の音読トレーニングですでにそういう議論ができる準備が整っています。だから、Sapiensを読むのです、外諸講読授業が楽しいはず。

 岡潔の説明には仏教用語がでてくるので理解がむずかしい。道元の『正法眼蔵』にでてくる用語を使用したり、芭蕉の俳句で平等性智の説明がなされるので、ある程度の修行を積まないと理解できない部分が随所にあります。そしてところどころに数学的な証明が織り込まれています。直感的に捕まえたものを説明するにはそうした論理に頼らざるを得ないところがありますが、論理ですべてが説明できるわけでもありません。生命や情緒は論理の彼方にありますから比喩を使うしかないようです。このように数学者岡潔の発言は奥が深くて凡人には理解が届きません。岡潔先生が頻繁に引用する道元の『正法眼蔵』は30代になってからなんどかチャレンジしましたが、いくら読んでもわからない本です。ハラリの言説と突合してみて、凡人のわたしにも岡潔先生のいうことが少しだけわかったような気がし、嬉しさがわいてきます。


*#3949 Sapiens と Homo Deus(1):ハラリの視界  Mar.10, 2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-03-10

**
#3950 Sapiens と Homo Deus(2):不定冠詞の役割  Mar.13, 2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-03-13


#3952 ゲノム編集技術の発展と人類の進化 Mar. 14, 2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-03-14


#3960 英語の教科書を読むトレーニング Apr. 12, 2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-04-12-1




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