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#3913 市倉宏佑著『特攻の記録 縁路面に座って』p.38~43 Jan. 31, 2019 [0. 特攻の記録 縁路面に座って]

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Ⅱ-1.特攻とは
Ⅱ-2.恬淡(てんたん) その二
Ⅱ-3.はっきりと特攻に疑問を抱いていた搭乗員もいる

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Ⅱ-1.特攻とは
  〈特攻〉において決して忘れてはならないことは、搭乗員たちがさまざまな思いを抱いて帰るとこ ろを求めていたということである。彼らが国に殉ずる思いを抱きながら、家郷に心を残して出撃していったことは、思えば当然のことである。死を前提とした作戦は、決して作戦ではない。人間を爆弾とする殺人命令である。 
 戦争は勝つため、国を守るためのものである。攻撃の成果そのものにはっきり成算があるわけでもないのに、ただ搭乗員の死を賭した壮烈な心情に甘えて、多くの特攻機を出動させたことは、どう見ても真に軍人たるもののなすべきこととは思えない。 
 結果的にいえば、若者の壮烈な死を正面に出して一億を感動させることで、軍人たちがみずからの敗戦の責任を隠蔽する一つのパフォーマンスに過ぎなかったともいえなくもない。これはもはや戦闘行為ではない。世界の戦争で特攻が正式に作戦とされたことは一度もない。特攻は、前線に出ない指揮官が継続的に部下を殺し続けた非人間的作戦である。まともなひとなら誰でもが、ちょっと考えれば分かることである。何故こんなことが行われたのか。これがまさしく特攻問題の最高の課題点である。 
 しかしまた、他方からいうと、何故搭乗員たちは粛々と特攻機に乗って出撃していったのか。前の章では、彼らの葛藤に満ちた文章を見ていただいたが、実はそうした葛藤を微塵も見せていない搭乗員たちがいたことも事実なのである。じじつ、何のてらいもなく、もくもくと出撃していった人たちがいる。


 佐々木八郎[東京大経済学部。南西諸島で散華。神風特別攻撃隊第一昭和隊]の文章には次のようにある。 


〔昭和十八年〕六月十一日
  (…)反動であろうとなかろうと、人として最も美しく崇高な努力の中に死にたいと思う。形 に捉われることを僕は欲しない。後世史家に偉いと呼ばれることも望まない。名もなき民として
自分の義務と責任に生き、そして死するのである。
(『あゝ同期の桜』20〜21頁  注18
 
 佐藤光男[専修大経済学部。

 昭和二十年四月十六日、南西諸島特攻死。神風特別攻撃隊第四昭和隊]は私と土浦で一緒になった。彼の最後の日記から引用する。

昭和二十年四月十一日(谷田部航空隊にて日記) 
本日待機命令下ル。 
 荷物ノ整理、散髪ヲシ、遺髪ヲ取ル。入浴シテ帰リ、酒ノ用意ヲシテイルト進出者集合ノ命ニヨリ集合シ、明日ノ進出ニツイテノ注意アリ。外出ガユルサレ、土浦ニ出テフラレル。
四月十六日朝目ヲ覚ス。寒シ。草村少尉ノ練戦ヲ主トスル隊ハ泊地攻撃、西村少尉ノ四機ハKDB 注1 注 攻撃
ニ行クコトニナル。残ルハ丸茂中尉ノ小隊ト、貞方少尉ノ小隊、計八名ナリ。ソノ八名モ、今晩ハイナイコトト思ウ。昭和隊三人組、水戸三人組ノウチ、小生一人残ル。コレニテ戦闘記録ノ如キモノヲ終ル。サヨウナラ。
(同書137〜138頁、140頁 注20
 
 佐藤光男君は、全くこういう人であった。土浦空では、同じ分隊、同じ班であった。何のハッタリ
もなく、淡々と仕事を果たす。まれに見る好漢であった。彼がみずから「戦闘記録の如きもの」と呼
んだこの文章は、恐らく彼にとっては遺書のつもりだったのではなかろうか。遺書をこうした形でし
か書かないのが彼なのだといってもいい。淡々たる文章の中に、わずかに望郷の念を滲ませている箇
所があることなど、いかにも彼らしい。



Ⅱ-2.恬淡 その二
 
 搭乗員には、概して恬淡の気があることは否定できない。ただ、出水に出撃する同期生を見送るたびに、今までおしゃべりで何やかやとざわついていた人々すべてが、いつの間にか淡々と愚痴一つ洩らすことなく動いていたことは忘れられない。
 
 もちろん端的に恬淡を強調している人々ばかりではない。搭乗員はさまざまな形で特攻に対処している。

 じじつ、恬淡の背後にあるものをさまざまに語っている人々もいる。黙って任務を引き受けて、昭 和十九年の十一月に特攻第一号として出撃した関行男大尉にしてからが、特攻が決まってから何日か後に特派員に取材されたとき、「じっさいに俺が征くのは、馬鹿な話だ。優れた搭乗員が、一回きりの自爆出撃とは。何回でも出撃し戦果を期待できるのに、効果の点からも無駄の話だ」と語ったという注21  。 
 これを聞いた特派員はこれをすぐ記事にした。しかし、検閲で禁止。関は黙って恬淡と出撃したことになる。これは戦後初めて伝えられた話である。


Ⅱ-3.はっきりと特攻に疑問を抱いていた搭乗員もいる
  「死にたくない」と言った言葉を残している搭乗員もいる。生き残った予備学生が、散華した友を 偲ぶ言葉に触れておこう。
 
 相馬昂[慶応大経済学部。偵察。第十二航空戦隊二座水偵隊] 
 相馬の出撃については、土浦空、徳島空、天草空と一緒であった相良輝雄[同志社大。偵察]はこう話している。

 
 出撃前夜に同室の相馬少尉(…)と酒を飲み交わしながらの彼の述懐がいまだに南海の底から聞こえて来るようだ。「ナア、相良少尉、今まで誰にも云わなかったが、明日までの命なれば俺は云う︱死にたくないとね︱たった一人のオフクロを残してどうして死ねるかってんだ。兄貴もラバウル空戦で散ったしさ。海軍の指導者はなんてムゴイ戦法を発明したんだろう!俺たちみたいな前途有望の青年たちを徒らに死なせて…」。それは人間性を主張する正直な無垢なそして勇気を要する叫び声であったし、苦笑いしながら落ちる涙も拭わない彼の面影が崇高な印象を残して現に私のアルバムに貼られてある。死者には死水と云う習わしなのか、明くる出撃当日は征く者と残る者は対面整列して水盃と固い握手を交わす最後の一刻、そして静寂を破って皆の口から荘厳な合唱は   
  此の一戦に勝たざれば   
  祖国の行手如何ならむ     
  撃滅せよの命受けし   
  ああ神風特攻隊   
  送るも征くも今生の 
  訣れと知れどほほえみて
  爆音高く基地を蹴る
  ああ神風特攻隊 
 特攻機が編隊を組んで沖縄目指して満月の空にはばたくのである。通信室に駆け込んで腕時計とチャートをにらめっこの居残り組はやがて数時間後に花と散る運命の戦友の武運を祈る。敵制空圏内に到達したのか、矢継ぎ早に送信して来る「モールス」は上空からキャッチした敵艦隊の配形や艦種名の偵察報告であり、最後に「我今より任務遂行す」の符号は電鍵を押さえたままの「ツー」と耳に伝われば、全身に鳥肌が立ち十数秒して連絡途絶えた。その時は機もろとも猛然の体当たりかさもなくば不運ながら空中に散った瞬間で、万感胸に迫りただ沈思黙禱して冥福を祈るのみ。
(「海軍十四期」第一九号22頁)


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注 18  
二〇〇三年版では二一頁。
注 19  
KDBは海軍の軍隊符合(部内のみで使用された略号や記号)の一つで、機動部隊のこと(中 村秀樹『本当の特殊潜航艇の戦い』光人社NF文庫、二〇〇七年、二三九頁参照)。この場合は 米軍機動部隊を指す。
注 20  
二〇〇三年版では、それぞれ一五四〜一五五頁、一五七〜一五八頁。
注 21  
この関行男大尉の談話の出典は不明。Ⅳ︱ 15 .にも同じ談話が登場。関行男が同盟通信特派員 小野田政に語った内容は、森史朗『特攻とは何か』文春新書、二〇〇六年、八七頁に紹介されて いる。「報道班員、日本もおしまいだよ。僕のような優秀なパイロットを殺すなんて。ぼくなら、 体当たりせずとも敵空母の飛行甲板に五〇番(五〇〇キロ爆弾)を命中させる自信がある」。
注 22   『続・あゝ同期の桜』では六〇〜六二頁。
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<ebisuコメント>
 青字部分とアンダーラインはebisuが付した。市倉先生自身が土浦飛行場で一緒だった佐藤光男について書いているからだ。土浦飛行場は落下傘部隊員だったオヤジも訓練で何度も行ったことがあったようだ。6発のエンジンをもつ飛行機をみなかったかと訊いたら「あった」と答えた。飛んだところは見たことがなかったと付け加えた。米国本土を爆撃できる航続距離の長い6発の爆撃機を開発していたが、制空権を失っているから、完成しても戦局には影響がなかっただろう。

 佐藤光男のように淡々と征った者、相馬少尉のように出撃前夜に戦友へ本音を告げた者もいた。兄がラバウルの航空戦で戦死、そして自分が特攻隊で征かねばならぬ、お袋一人残して死ななければならぬ特攻作戦の理不尽さと詰(なじ)っている。このばかげた作戦を立案した軍令部を許しがたいという心情が吐露されている。それでも命令に従い、征くのである。
 市倉先生はこの原稿を書きながら何度も涙を流していたに違いない。
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