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#3747 ソクラテスの裁判と森友文書改竄事件 May 31, 2018 [8. 時事評論]

 佐川元理財局長以下、38名の財務省職員が不起訴処分になった。公文書は一文字たりとも変えてはいけない、手を加えたら公文書偽造にあたるが、300か所も手を入れても「国に損害を与えたとは言えないので」大阪地検は罪に問えないという。損害の有無ではなく、改竄や偽造があったかなかったかが要件ではないのか、不思議なことがまた起きた。理を外れた弁に聞こえる。

 この国の裁判制度がどういうレベルか、2400年以上前に古代アテナイの都市国家でなされたソクラテスの裁判と比較してみたい。
 『百%の真善美 ソクラテスの裁判』の著者である遠藤利國さんは、本の末尾の「エピローグ ソクラテスの遺したもの」にこの本を書いた2番目の理由を次のように述べている。
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 第二の理由は、この裁判の持つ今日的な意味である。この裁判の経過について多少なりとも通じている人は、その自由で開かれた裁判の在り方に驚嘆の思いを抱くことだろう。これが二千四百年以上も前に行われた裁判なのである。今日国連加盟国は二百カ国ほどあるだろうが、、その中で裁判制度がこのレベルに達している国がどれほどあるだろうか?おそらくその1割、つまり二十カ国にも満たないのではないだろうか。
 内戦に明け暮れしている発展途上国、宗教やイデオロギーが支配する独裁政権は無論のこと、安全保障理事会の常任理事国の中にさえ、古代アテナイの裁判のレベルに遠く及ばない国があるのが、今日の世界の現状なのである。もっとも、そういう我が国も、百年前の大逆事件を例にとるまでもなく、太平洋戦争の敗戦で消滅した大日本帝国時代の裁判のレベルは古代アテナイに遠く及ばず、先進国並みの裁判制度の透明性を維持できるようになったのは、近々数十年の話なのである。
 では、なぜ及ばないのか。何が異なるのか。
 古代アテナイの民主性も、後の共和制ローマも、貴族と市民が王を追放して、成立させた政治制度である。つまり、それは社会正義の在り様を特定の王やその取り巻き集団の利 interest ではなく、社会の多数が納得できる理 reason をもとにして追求しようとする社会であった。詳しくは『漫言翁福沢諭吉ー時事新報に見る明治』(未知谷)の第二章を参照していただきたいが、そうした社会正義の在り様が大小さまざまな社会制度の違い、ひいては国としての発展の基礎となって現れるのであって、先に述べたアテナイの裁判のレベルをクリアした先進国と、それ以下の後進国との違いはこの社会正義のとらえ方の違いに基づくともいえるのである。p.145


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  後段の太字の部分はそのまま今日の日本、大阪地検の「嫌疑不十分」を理由とする不起訴処分に重なる。

<余談>
 この本は150頁ある。文体が語り口のように流暢で、とても読みやすい。遠藤さんは哲学者である。国学院大学で15年間ソクラテスの裁判をテーマに毎年講義を繰り返した成果がこの本。かれは早稲田大学大学院哲学研究科、樫山ゼミ出身である。読めばわかるが、視点の置き所がユニークで異色のライターといってよいだろう。院生時代の彼は一風変わっていた。哲学をやるのにギリシア語の勉強をしていた。ギリシア哲学の基礎概念は日本語や英語では理解できない部分がある。あの時代の院生でそこまで徹底する者はいなかった。
 専修大学の哲学の教授をしている伊吹氏は市倉ゼミの同期である。かれは哲学のほうの本ゼミ、わたしは学部を超えた「一般教養ゼミ」、三年間市倉先生に学んだ。
 当時早稲田大学大学院樫山ゼミでテクストに取り上げたのが市倉宏佑教授の翻訳『ヘーゲル精神現象学の生成と構造』上下の2冊本である。あれを読みこなすせるのは哲学科の学生でも一握りのトップレベルの層のみ、なかなかたいへんな研究書です。別の意味でもっと大変なのが毎日出版文化賞を受賞した『アンチオイディプス』、この本は哲学の素養だけでは翻訳できないでしょう、哲学と経済学の両分野に渡っています。そういう意味では4年間だけ存在した学部を超えた理想郷「一般教養ゼミ」の延長線上のお仕事だったのではないかと思います。『資本論』全巻とグルントリッセ(『経済学批判要綱』1-3分冊)を読みました。
 学部の午後からのゼミの時に、市倉先生が眠そうな顔をしていたことがあったので訊いたら、「イポリットの著作の翻訳作業をしていたら朝になっていた」とおっしゃった。

 わたしは商学部会計学科から大学院経済学研究科へ進学したから、遠藤さんは渋谷駅前にあった進学教室の三年間はわたしが哲学者の市倉先生のゼミだとは知らなかった。ブログを書き始めてから遠藤さんがメールをくれて、お付き合いが復活した、メールで樫山ゼミで市倉先生が翻訳した『ヘーゲル精神現象学の生成と構造』を読んだと聞いて、「わたしは学部時代は3年間市倉ゼミです」と言ったら驚いていた。かれは青春の熱い時代を共有した旧友なのである。
 東京渋谷駅前にあった進学教室で一緒に三年間だけ専任講師のバイトをしていた。授業のない時間の「職員室」はまるで梁山泊だった。専門分野の異なる専任講師たち数人で雑談や議論していることがよくあった。大学院では経済学研究科はその分野の専門家だけが集まり、他科との交流はない。哲学研究科もそうだ。ところが、その塾の専任講師には様々な分野の人がいた。理系の大学院生や東工大出の1級建築士など、実に多彩だった。ああいう空間がいまはもっと必要なのではないか?

*#2006 Eさんの新刊書『漫言翁 福沢諭吉 時事新報コラムに見る明治』 July 10, 2012
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-07-10

 #2044 『漫言翁 福沢諭吉 時事新報コラムに見る明治』 (2)  Aug. 8, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-08-08

 #2254 『漫言翁 福沢諭吉・・・』 (3) Apr. 2, 2013 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-04-02

*#1823 激烈な競争から這い上がれ:団塊世代の友人からの手紙 Jan. 31

*#1025 『明治廿 五年九月の ほととぎす 子規見参』 遠藤利國著 May 10, 2010 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-05-10

  #1030 『nationalism とpatriotism』 May 17, 2010
  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-05-17


  #1362  『「漢委奴国王」金印誕生時空論』を読む:パイオニア 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-01-30-2

  #1366 『「漢委奴国王」金印誕生時空論』を読む (2) : 学問の楽しさ Feb. 2, 2011 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-02-02

  #1368 『「漢委奴国王」金印誕生時空論』を読む (3) : 学問の楽しさ Feb. 3, 2011 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-02-03-1

 #1823 激烈な競争から這い上がれ:団塊世代の友人からの手紙 Jan. 31, 2012 
 
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  #1972 "Not a mimute too soon" :掛詞 June 12, 2012 
 
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  #1993 掛詞(2) 子規は? July 1, 2012 
 
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百%の真善美―ソクラテス裁判をめぐって

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