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#1573 学力と語彙力の関係(3): 英英辞書と母語の語彙 July 7, 2011 [74.高校・大学生のためのJT記事]

 日本語語彙と英語学習の関係の具体例を一つだけ挙げたい。7月3日のジャパンタイムズを読んでいて、気になった箇所があった。以下、#1570で採り上げたところを抜粋する。

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 話を転じて、英語を理解する上で母語の語彙が重要になることを例示したい。「英語を英語のままで理解する」重要性を強調する人もいるだろう、そして長い時間をかけて自然にそうなることを認めつつ、「英語を日本語に置き換えて理解すること」もある時期はそれ以上に重要なのである。母語の語彙力が貧弱な者は英英辞典を有効に使えないと思うのだ。
 どういうことか具体的に話さないと納得がいかないだろう。次の文は7月3日のジャパンタイムズ紙の社説からの抜粋、時事英語の授業で採り上げる予定のものである。
 根室は沿岸漁業が主力産業の町だから、海に関する記事には注目して授業で採り上げているが、今回採り上げたeditorialのタイトルは"The Dying oceans"となっている。太平洋だけではないらしい。太平洋・大西洋・インド洋・北氷洋・南氷洋のいくつかがそういう状態にある。「臨終の瀬戸際にある海洋」あるいは「死の淵にある海」。沿岸漁業で生きる町、根室の問題として捉えてほしい。

 ・・・
 ISPO found that entire ecosystems, like coral reefs, are dying, complete populations of certain species of fish are close to extinction and population is at an all-time high. These various factors are bad enough in isolation, but the comprehensive study found that add up much more quickly than previously understood.
 ・・・

*IPSO:a consortium of scientists, the International Program on the State of the Ocean (海洋の現状に関する国際問題・科学者協会)

  記事本文は次のURLにあるので、興味をもった人はクリックして全文をお読みいただきたい。
http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/ed20110703a1.html


 中1の生徒たちは、書き言葉が理解できないと日常会話ではない話(授業)すら聞き取れないことを示してくれている。コンテキスト(前後関係)の中で語彙を捉えないと、語彙の意味すら確定できないことがあることも。
 さて、英語の学力の高い高校生用の教材にピックアップした記事からの抜粋だが、緑色の部分を日本語語彙に置き換えてもらいたい。もちろん、文全体の意味もつかんでほしい。そうでなければこの2語を適切な日本語で表現できないからである。
 英英辞典を引いて利用するにはその人がもっている日本語の語彙が重要であることがわかるだろう。英語の学力もあるところから母語の語彙力に左右されると言える。populationという単語を知らない高校生は少ない、英語のできる生徒たちには常識的な単語である。
・・・

*#1570  学力と語彙力の関係(1):総論
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-05
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 populationを英和辞典で引いてみると次のようになっている。
 名詞UC ①人口、住民 ②(一定地域の)全住民、(特定の階層・種族の)住民 ③〔生態〕個体群、集団 ④母集団

 ジーニアスの4版であるが、ほかの2冊辞書もたいした違いはなかった(参考までにネット最大の辞書英辞郎を引用しておく⇒26行ほど後にあり)。
 "complete populations of certain species of fish"とあるから、お魚さんのことを採り上げている。人間に「人口」という言葉は使うが魚には使わない。そこで英和辞典のユーザは暗礁に乗り上げる。

 この英文を見てイメージに沸いたのは最近絶滅が危惧されている本マグロの群れである。海洋を大きなマグロが先頭を切って泳ぎ、順次型の小さいマグロが続いて群れをなしている。本マグロは築地では3000万円の値段がついた高級魚の代表であり、全世界の有能な漁師たちから狙われ、このままでは早晩絶滅するだろう。もう一つのイメージは根室の海で小中学生のころチカ釣りをしていたときにいつも目の当たりにしていた光景である。何千匹ものチカが岸壁付近に群れ泳いでおり、そこへ釣り糸を垂れる、釣りの技術の良し悪しとは別にいくらでも釣れる。そうした光景がイメージに浮かぶ。そうしたイメージにふさわしい語彙は「棲息数」である。
  「特定の魚種の棲息数が絶滅に近い」
  「数種類の魚の棲息数はほとんど絶滅状態」

 日本語で動物や魚類に「人口」という語は使わないから、辞書の中から選ぶと「個体数」が許容できるギリギリだ。しかし、「絶滅」という語との相性がいいのは「棲息」である。生きて群れ泳ぐ感覚が「個体数」という言葉からは伝わってこないから、語感が「個体数」という用語を拒絶する。
 気になるので、Cambridge Advernced Learner's Dictionaryを引いてみると、

population: ①all the people living in a particular country, area, place
  ②all the people or animals of particular type or group who live in one country, area, or place

  ②の"who live in"の語から考えるとやはり「棲息数」がイメージを伝える日本語としてふさわしいと感じる。ところが、わたしが引いた英和辞書3冊にもネット辞書である「英辞郎」にもこの訳語はない。
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 参考:英辞郎より
population

【名】
  1. 人口{じんこう}、住民数{じゅうみんすう}【略】pop.
  2. 〔動物の〕個体数{こたいすう}
  3. 〔ある地域に住む〕全住民{ぜん じゅうみん}、人々{ひとびと}
  4. 〔統計{とうけい}の〕母集団{ぼしゅうだん}【同】universe
  5. 〔生物{せいぶつ}の〕個体群{こたいぐん}、集団{しゅうだん}
  6. 《天文》種族{しゅぞく}◆銀河系内で恒星を、誕生後まもない若い種族Iと銀河形成時に誕生した古い種族IIとに分類する。種族Iの星には重元素が多く存在するが種族IIの星には少ない。種族Iと種族IIの中間の性質を持つ星を中間種族星という
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 日本語では人間であるか動植物であるかによって使い分けられている用語がこの場合、英語ではpopulationの一語しかないようだ。

 英和辞典を引いても適語が見当たらないことが時々あるので、面倒なのでいつか英英辞書を引いて確認することが多くなった。それともうひとつ自然科学系のごく普通と思われる用語に適訳のないことがある。
(文科系大学出身者が辞書編集者になっているが、自然科学系の本をあまり読まないのだろうかと疑いたくなる。広辞苑も大辞林も自然科学系の用語についてはきちんと載せているから、これらの辞書とつき合わせて英和辞典は訳語の点検をしてほしい。お金にならない改訂になるが、そういう仕事を担える知の職人が日本にはたくさんいるはずだから、出版社がお金をつぎ込むかどうかだが、こういう仕事にこそ国の補助金を出してもらいたい)。
 英英辞典の解説を読んで語のイメージが頭に浮かぶと、今度は自分の母語の語彙の中から適切な言葉を探すことになる。そのときに語彙が貧弱だと適切な日本語がその中にないことになりかねない。高校生のころは無理やり英和辞典の訳語を使ってへんてこりんな和訳をやったものだ。大学では時事英語担当の先生が授業前日発行の毎日デイリーニュースの社説を使って英和辞典の訳語を無理やり当てはめ、経済専門用語の誤訳を繰り返した。自分の訳した文を音読してみれば訳文がへんてこりんなことはすぐにわかるものだ。

 英英辞典を読んで思い浮かべられる言葉は自分の語彙の中にしかないのだから、英英辞書を使う際にはある程度の母語の語彙の広がりが必要だとわたしは思うのである。英文と試訳を並べておく。


  ISPO found that entire ecosystems, like coral reefs, are dying, complete populations of certain species of fish are close to extinction and population is at an all-time high.

「ISPOの研究は次のことを明らかにした。珊瑚礁に象徴的に現れているように生態系全体が死につつあり、いくつかの魚種についてはその棲息数が絶滅状態に近づき、(そうした状況下で)人口は人類史上最大となっている」

 "complete"は強意と普通の英和辞書には出ている。1年ほど前だったろうか、ブログにコメントを寄せてくれた根室出身の英語専門家の方のお薦めで買った『英語基本形容詞・副詞辞典』(小西友七編)も念のために見たが、あえて日本語に訳出する必要はないだろう。
(『基本動詞辞典』もついでに書棚を飾ることになったが両方とも重宝している m(_ _)m)
 "like coral reefs"というのは"entire ecosystems are dying"と関連させて読むと、珊瑚礁の白化現象をさしているのだろう。南氷洋にあるグレートバリアリーフでは海水温の上昇が原因と見られる珊瑚礁の白化現象が広がっている。珊瑚が死んで骨格だけが残るのが白化現象だが、珊瑚礁全体に広がりつつある。白化現象が広がると共に珊瑚礁に棲息する魚も激減しており、文字通り生態系全体が死につつある。骨格だけになった白い珊瑚と魚一匹いない海を想像してみたらいい。それが世界最大の珊瑚礁であるグレートバリアリーフに広がっているのだ。
 書き手はpopulationという語を魚類と人類に使い分けることで一方の絶滅と他方のわが世の春ともいえる繁栄ぶりを対比しているのである。「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす おごれる人も久しからず ただ春の世の夢のごとし たけき者も遂には滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ」、この英文からは平家物語の一節が聞こえてくる、それが日本的情緒というものだろう。

 魚の方は数種類の「棲息数」についてのものだからpopulationsと複数形、あとのほうは不可算名詞の「人口」そのものだから無冠詞のpopulationとなっているところも注意したい。よく読むということはよく書くことに通ずるのかも知れぬ。書き手のイメージは冠詞の種類や無冠詞に現れる。
 ある生態系の一部が絶滅し始めたという事実は、それがある一線を越えてしまえば食物連鎖を通じて生態系全体に波及し、ついにはその生態系の頂点にいる生物種を王座から追い落とすことになるリスクをはらんでいる。どうやら人類を頂点とする生態系から別の生物を頂点とする生態系へと遷移しつつあるようだ。引き金は頂点に立つ人類自身が引いたのだ。さあ、人類はこれを食い止めることができるか?叡智と決断と行動力がいま私たちに要求されている。

 時事英語は英語の教科書に比べてずっと面白い(と私は思っている)。環境破壊、地球温暖化、オホーツクの海から流氷が消えつつある、火山(三宅島)の噴火と住民避難のその後、大地震、津波、原発事故、小学校への英語授業導入の問題点等々、内容がじつにゆたかである。
 英語の勉強の教材は内容に興味のもてるものがいい。中学校の教科書を見ても高校の英語の教科書を見ても、語られている内容が貧弱なものが多い。
 高校生はたまには英字新聞くらい読んで欲しい。根室ではキオスクで英字新聞が売っていないから、今後は気になる社説や記事があったら根室の高校生のためにURLをブログに載せることにしよう。プリントして読んでみたらいい。

 小中高生は日本語の本をたくさん読んで、母語の語彙を豊にしてほしい。(会話以外の)書き言葉に関する母語の語彙が豊かになる季節は小学生高学年と中学時代、そしてもう一段高いレベルの語彙に駆け上るのが高校と大学時代。書き言葉の語彙拡張と日本的情緒は読書によって育まれる。日本的情緒は生活体験と読書によって育まれるもの。
 大量の読書によってこの二つの季節に母語の語彙を広げた者は日本的情緒を心にもつと同時にたいがいの専門書が読める強力な基礎的学力を保有することになるだろう。
 必要な専門書が原書で読めたら楽しいし、仕事の幅がグーンと広がるだろう。母語がしっかりしていればノビシロが大きいだろうから外国語の学習も楽しくなると私は思う。

 (ついでに書くが、わたしは小学生の英語教育に反対である。このブログで何度か書いたが大数学者の岡潔も数学のノーベル賞であるフィーズル賞受賞者の小平邦彦も、『国家の品格』を書いた数学者藤原正彦も同じことをいっている。私は海外留学の経験はないがこれら三人の数学者はみな留学経験者であるが、母語の語彙の重要性を語っている。
 小学生の季節は、質のよい日本語の本をたくさん読んで、日本的情緒を心のなかに育てると同時に、母語の語彙を拡張すべきときなのである。この時期を逃してはならぬ。中学生になっても高校生になっても、受験勉強を言い訳にして、本を読むことをやめてはならぬ。ほどほどに本は読め。頭の中にたくさん母語の語彙を詰め込み、そうしながら自分の頭で考えよ。「地頭」は豊かな母語の語彙という肥沃な土壌に根を張りそこから滋養を汲み上げて育つのだ。)


*#1213 数学者岡潔(1):『日本という水槽の水の入れ替え方―憂国の随筆集』
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-09-20

 #749 フィールズ賞受賞数学者小平邦彦と藤原正彦の教育論
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-10-04

 #569 英語教育論:藤原正彦『国家の品格』より抜粋
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-05-03-1

 #559 フィールズ賞受賞数学者小平邦彦の教育論
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-03-28
 
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 #767 First farms may have averted ice age (3) 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-10-21-1
 
 以下、一部分抜粋
 「・・・
《パラグラフ・リーディング⇒コンテキストからのアプローチ》
 英文の意味解釈のアプローチとして生成文法的なアプローチの他にもう一つ有力な方法がある。それはパラグラフ・リーディングであるが、ちょいとハイレベルで高校生にはなかなかつかみ辛いだろうが、英文解釈の王道だ。
 高校生にちょっとハイレベルで難しいというのは、レベルの高い日本語の本を論理的に読むトレーニングを積んでいないと不可能だからだ。英語の理解力は日本語の理解能力以上にはならない
 だから、小学生のうちから英語の勉強をする必要はない。そのような暇があったら日本語の本をもっとたくさん読めと言いたい。
 中学生や高校生は児童書を卒業して、文庫本や岩波新書や中公新書をたくさん読め。新書版の書籍は良質なものが多いし、専門書への入り口にもなっている
 このレベルの本が読めるようになれば、興味のある分野の専門書が独力で読めるようになる。だから、ニムオロ塾では中学生に『読書力』斉藤孝著、『国家の品格』藤原正彦著、『日本語を磨く』林望著、『風姿花伝』世阿弥著・林望現代語訳などを採り上げて、音読と三色ボールペンで線を引くトレーニングを実施している。
 日本語で書かれた文章の理解のレベルを上げ続けた者だけが、英文のコンテキストを理解できるようになる。パラグラフ・リーディングは熟練の技なのだ日本語のパラグラフ・リーディングやパラグラフ・ライティングができる者は、英文のパラグラフ・リーディングも比較的容易にできるようになるだろう。日本語で準備が整っているからだ。このように理解すれば、小平邦彦の英語教育論も藤原正彦の英語教育論もその理由が具体的にわかるだろう。「塾長の教育論」というカテゴリーの中にあるから、まだ読んでいない人はチラッとでも好いから見て欲しい。

 Hirosukeさんが「問題文の3回読み」を提唱しているが、これはたしかに有効な方法で、理にかなっている。
 全体をザーッと読み、なにがテーマなのか、キーワードが何なのかなどに注意してとにかく全体を把握する。つぎにパラグラフ単位で読み、3度目は問題文に即して読む。こうすれば全体のコンテキスト(前後関係、脈絡)がつかめる。
 パラグラフ単位のコンテキストがつかめると、意味の解釈できないパラグラフや、そのパラグラフの中の1文も「こういう展開になっている筈だ」と推論できる。その推論に沿って読むことで、文法工程指数の高い文でも理解可能である。これも英文攻略の有力な方法である。ただし、彼のように日本語能力の高さに裏打ちされていないと高みに届かない。
 この際に気をつけなければならないのは、自分勝手なコンテキストをつくり上げてはならないということだ。ここを間違えると、とんでもない誤訳をすることになる。質のよいプロの翻訳家でも、ときにこうしたことをしてしまう。当然自分は気がつかない。論理がまるで違うことになるから、パラグラフや著作の論旨にかかわることもある。読者に大変な迷惑をかけることになるのである。
 だから、生成文法的アプローチとの併用を欠かすことができないとわたしは思う。一部の能力の高い者は例外であるかもしれない。独断によるコンテキスト理解を防止するために生成文法的アプローチを併用するのは、かなり著名で、品質のよい翻訳をする経済学者ですら、コンテキストの読み間違いをしていることがあるからだ。

 それに、高校生に理解できるように説明するためには、簡便な生成文法的解説が欠かせない。コンテキストだけで英字新聞レベルの記事を読み切る技は日本語文章修行が足りない普通の高校生には無理がある。難度の高い英文の意味をつかむ技としては、この三十数年間ほかに有力な方法がみつかっていない。三十年ほど前までは好奇心に駆られてチョムスキーの著作を数冊原書で読んだし分厚い生成文法に関する解説書も読んだが、深みに嵌りすぎると本来の目的=英文の意味を理解するという範囲を逸脱していた。・・・  塾教師には生徒が理解できるような説明ができるだけで十分である。いくつかある大事な「引き出し」の一つになっている。

 この記事に関していえば、・・・」
(以下はURLをクリックしてお読みください)
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*#1570  学力と語彙力の関係(1):総論 July 5, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-05

**#1572 「学力と語彙力の関係(2): 5科目合計点が高い⇔国語の得点が高い?」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-05-3


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