So-net無料ブログ作成
検索選択

#3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017 [数学四方山話]

  #3433と#3434で、二度にわたって数学の概念の扱いに言及したのは理由がある。ある教育ブログで「正四角錐の頂点は一つ」という記述を見つけたからである。「指導書に書いてある」というのが論拠だった。FBメッセンジャーで議論を何度かしたが、指導書の名前や出版社名やページ数が示されることはなかった。そして議論はまったくかみ合わず、論拠が明示されないので議論そのものをあきらめた。
  議論の過程で、40年前に読んだユークリッド『原論』や森毅著『現代数学とブルバキ』、ヒルベルト『幾何学基礎論』を読み直した。3月に東京へ行ったときに見つけた小島寛之著『論理式の読み方から、ゲーデルの門前まで 証明と論理に強くなる』もついでに読んだ。
  ちゃんとした議論がしたかったので、うろ覚えになっている自分の記憶を整理する必要があった。議論はあきらめたが、せっかくだから弊ブログ上で整理をしてみたというのが、これを含めた三つの小論の意図である。

  わたしの意見では、正四角錐の頂点が1つであるか5つであるかは、数学の定理にかかわる問題である。その定理とはオイラーの多面体定理で、次の等式で示される。

  面の数+頂点の数-辺の数=2

  この等式はすべての多面体でなりたつ。正四角錐では、面の数5、頂点の数5、辺の数8で、この等式を満足するから、正四角錐の頂点の数が1つという主張は、オイラーの多面体定理の否定でもある。
  オイラーの多面体定理は、演繹システムで数学的論証ができる。
  訊いてみたら「正四角錐を錐体としてみたら頂点は一つ」という主張があったが、正四角錐と錐体は概念が異なることは#3534で解説した、後段で再説するが常識的な議論である。類概念とその部分集合は概念としては別物。こういうのを(正四角錐を錐体と置き換えること)を論理のすり替えという。

  「彼の人」の主張に沿って、正四角錐の頂点の数が1つだという命題が正しいケースを考えると、それは別の演繹システムの場合だけ、数理論理学的にはそういうことになる。
  正四角錐の頂点の数が一つが正しい場合は、頂点の定義が異なるかあるいは公理が別というケースが考えられる。

  ユークリッド『原論』の演繹システムの場合は、多角形で頂点の定義がないから、オイラーの多面体定理は、その演繹システム(ユークリッド『原論』)では論証が不可能である。そういう演繹システムがあるのは事実である。
  前二回の弊ブログで整理して取り上げたこういう話がまったく通じなかった。数学の定理や概念を云々するには、数理論理学の知識は不可欠だし、最初の厳密な演繹システムであるユークリッド『原論』やブルバキ『数学原論』はもとより、その間をつなぐ(現代数学の祖)デカルト『方法序説』やペアノの自然数公理、ヒルベルト『数学基礎論』も関係している。議論の前提として、数学史や数理論理学の基礎的な知識は不可欠。

  わたしは2社で統合経営情報系システム開発をユーザー側で担当したことがあり、業界トップクラスのSEと何度か仕事のチャンスがあった。システム専門家と話すときはシステム開発に関する専門用語はもとより、プログラミング、PERT、などさまざまなシステム開発技法に精通しているだけではなく、簿記や原価計算、輸入業務、検査業務などの適用業務の理論と実務についても専門家である必要があった。そうでないとSEともシステムを導入する部門とも話が通じない。
  日本標準臨床検査項目コードの開発の時も同じだった。臨床病理学会項目コード検討委員会の委員長であった櫻林先生に大手六社の検討会議へ出席して議論の方向を束ねていただくには、標準コードや臨床検査についての具体的な専門知識ベースが必要だった。プロジェクトにかかわる複数の専門分野の知識を持たなものはプロジェクトマネジャーの任は担えない。
  慶応大学医学部産婦人科の医師たちとの出生前診断検査の日本標準に関する共同研究プロジェクトでも、米国から取り寄せた資料を読み、必要な人材をラボからピックアップして、プログラミング仕様書を書くという作業が前段にあった。英文で書かれた学術論文のデータから、曲線回帰分析をしなければプログラミング仕様に必要な方程式が算出できないから、統計の専門知識やプログラミング仕様書を書く技能がなければできない仕事だった。沖縄米軍からの依頼でトリプルマーカMoM値検査の導入というプロジェクトが前段にあったのである。
  どの仕事も、相手の専門用語での議論が不可欠だった。専門用語での会話は誤解がほとんど生じないから、メリットが大きいのである。
  数学の概念を議論するには、数理論理学の基礎知識が欠かせないことはこれらの事例から類推していただけるだろう。
(わたしはたまたま仕事の運がよかった。仕事に理解のある担当役員や社長がいて任せてくれたから、獲得した様々な専門知識とスキルを仕事で磨けた。感謝している。)

  公理系が違えば同じ名前の概念でも定義も異なることがある。三角形の内角の和が180度というのは平面幾何学でいえることで、球面幾何学という別の公理系では三角形の内角の和が180度より大きくなる。自然数の定義も中学校や高校ではゼロを含まないが、現代数学の自然数の定義はゼロを含むということを議論の中で演繹システムが異なれば定義も異なる具体例として挙げた。
  数理論理学では、数学的帰納法との関係で、自然数は厳密に扱わなければならない。ペアノの自然数公理やラッセルの自然数PM(プリンキピア・マティマティカ)では、ゼロを自然数の出発点としている。自然数は現代数学で演繹システムとして厳密に定義されたということ。
  数学的帰納法が指導項目に入ってこない小学校や中学校では、そういう厳密な自然数の定義は教える必要がないから、カットされているだけのこと。だから、小中学校では自然数は「正の整数」でゼロを含まないということになっている。高校数学では数学的帰納法の説明が出てくるが、自然数の厳密な定義はなされないから、高校でも自然数は1から始まる、つまり正の整数=自然数という定義である。整合性と保つために、数学的帰納法では出発点 のnがゼロのケースは扱われない。学校教育では、こうした素朴な自然数定義で十分です。
 繰り返すが、学校教育で扱う数学では、小学校でも中学校でも、自然数はゼロを含まない。中1の教科書にも載っている。
-------------------------------------------
たとえば、整数には、正の整数、0、負の整数がある。正の整数を自然数という。
   『新しい教科書1』東京書籍 10ページ
-------------------------------------------

  「彼の人」の4月27日付ブログでは、中学数学ではゼロを自然数にカウントしているととれる記述があるが、わたしにはその説明自体もまったく理解できない。自然数はゼロから始まるから、3の倍数にゼロが入るという説明も肯けない。教科書には(上述に見たように)自然数は整数の部分集合だという内容の説明が書かれており、自然数と整数が「完全に一線を画す」なんてことはないのである。
 
--------------------------------------------
 学校では「自然数に0が入らない」というふうに「整数」と完全に一線を画すように教えている以上、nに0が入ると非常に都合が悪い。そこで、「n=自然数」について勘違いが起きないように「個数」と「順位」の2つ用意している、ということなんです。」

*教育時事問題ブログ
http://www002.upp.so-net.ne.jp/singakukouza/jijimonndai.html#Anchor-10773
---------------------------------------------



<参考>大辞林より
-----------------------------------------
類概念:二つの概念が従属関係にある場合、上位の概念をいう。たとえば、「日本人の男」に対する「日本人」「日本人」に対する「人間」。類
-----------------------------------------

  整数が負の整数、ゼロ、正の整数(自然数)から構成され、自然数が整数の真部分集合だということも、整数がこれら三つの部分集合を束ねる類概念だということも理解できていないようにわたしには見える。そのことは正四角錐と錐体の概念の関係にも共通している。「彼の人」は正四角錐と錐体のところでも概念構造(類概念とその下位概念)を理解できなかった。#3534で大辞林から引用して具体例で説明したが、普通の人に理解できることが自説にこだわると理解できなくなる、そういう癖があるようだ。


  自然数をnで表すことはあるが、整数をnで表す例を「彼の人」が解説している。そこで整数と自然数の混乱が生じているが、整数をnで表す例をわたしは寡聞にして知らない。引用した文の前後をご覧いただけば用語の混乱ぶりがわかる。
  整数は高校数学ではZで表すが、それは ganze Zahl というドイツ語から来ている。自然数は natural number という英語の翻訳であるが整数はZを使うのが日本の数学の習慣で、ドイツ語由来なのだ。そんなことを知らないはずがないからうっかりしたのだろう。そういうわけで、主張に無理がある。
(証明問題で「m,nを任意の整数とする」というような記述があるが、mもnも異なる任意の整数を代表する単なる記号で、このnをnatural number の n のことだと誤解するような人はいないだろう。m,nが整数だと宣言しているのだから。参考書や問題集に整数をnで表していても、同様の理由でnatural numberのnではない。)

  正四角錐の頂点が一つであるという記事を再検索してみたが、見つからなかった。自分の論が正論だと信じて疑ってないので削除はしていないだろうから、興味がある人は、「彼の人」の過去ログを丹念に読まれたらいい。きっと見つかります。
(ありました。「彼の人」のブログの「算数・数学のセンス」のディレクトリの「知識と指導力」2017/03/04です。http://www002.upp.so-net.ne.jp/singakukouza/mathsence.html…5/4追記)

  意見の違いはあっていいのです、どこまでも平行線でもいい。その都度、必要な論拠の提示があれば役に立つことがありますが、論拠の提示や合理的推論のない議論は無意味ということ。
  現代数学ももちろん論拠の提示や合理的推論、演繹的論証に基づき議論がなされています。ゲーデル著・林晋訳『不完全性定理』(岩波文庫)の「解説」p.87-275をお読みください。無限集合をめぐる議論と自然数の定義の関係やヒルベルト計画とその破綻、多くの数学者が興味のある議論をしています。
  中高生の皆さんは受験数学の範囲を超えて学問自体に好奇心を広げてください。時間をかければすこしずつわかってきます。


*「塾の功罪と地域の意識」ブログ情熱空間
  コメントが15本あります。人の意見の多様なことよ、だから意見の異なる人と論拠を明確にして真摯に議論する必要があるのではないでしょうか。
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8817809.html

*#3536 すごい成果をあげた生徒:入塾五か月で英数二科目学年トップ May 3, 2017

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-05-03


*#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26

 #3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26-1

 #3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-30

 #3538 ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n] May 7, 2017 
 #3446 信頼の喪失と回復(自然数の英語名は?)  Nov. 1, 2016

#3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017 [数学四方山話]

  前回#3533「  自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 」で自然数概念と演繹システムの関係を分析した。今回は、円錐や角錐の頂点の数がユークリッド『原論』(以下『原論』と略記することがある)の演繹システムではどうなっているのか検討してみたい。

  『原論』は「定義」「5つの公準、5つの公理」そして証明すべき「命題=定理」からなっている。ブルバキは現代数学の体系化の基本原理として集合論を措定し、数学各分野について30冊の本を出版して体系化を試みている。ユークリッド『原論』とブルバキ『数学原論』は同じ演繹システム構成をもつ。
  40年前に購入したこの本に再度目を通してみた。演繹システムとしてマルクス『資本論』経済学体系を見ていたので、いつか読むだろうと本棚の肥やしにしていた。(笑)
  『数学原論 集合論1』から引用する。
--------------------------------------------
「6.各章の論理的な骨組みは、《定義》、《公理》、《定理》から成る」…ブルバキ『数学原論 集合論1』p.2(以下、『数学原論』と略記することがある)
「2.叙述の仕方は公理的、抽象的であり、原則として一般から特殊へ進む。この方式を選んだのは、現代数学全体に確固たる基礎を与えようというこの原論の主目的による。この目的のためには、多くの概念や一般原理を一挙に獲得することがどうしても必要である。されに、証明をつける必要上、内容は原則として厳密に定められた論理的順序に従って配列される。したがって、この原論の中には、すでに広い知識を持ち合わせている読者にしかその効用がわからないような事柄も含まれている。そうでない読者は、納得できる機会が来るまで判断を差し控えて辛抱強く待たなければならない。 」...同書p.1
--------------------------------------------

  ユークリッド『原論』とブルバキ『数学原論』30冊、は演繹システムとしてみるとまったく同じ。

  ユークリッド『原論』第1巻は次の23項目の定義から始まっている。
--------------------------------------------
点、線、点の端、直線、面、面の端、平面、平面角、直角と垂線、鈍角、鋭角、境界、図形、円、円の中心、直径、半円、直線図形と三辺形と四辺形と多辺形、等辺三角形・二等辺三角形・不当辺三角形、直角三角形・鈍角三角形・鋭角三角形、正方形・矩形・菱形・長斜方形・これら以外の四辺形、平行線
--------------------------------------------

  これら23項目の一つ一つに定義がつけられているのだが、このリストに(直線図形=多角形)頂点の定義が含まれていないことに注意。『原論』第1巻は定義と公準・公理のリストに続けて、正三角形の作図から始めている。三角形が多角形の基本(一番単純な多角形)ということだろう。平面幾何には他の巻にも定義があるが、頂点の定義はどこにもない。
  『原論』は平面幾何⇒数論⇒空間図形という3部構成をもつ。空間図形は第11巻(p.343)から始まる。第11巻の冒頭もやはり「定義」である。28個の定義がリストされているが、関係のある個所だけをピックアップしてみる。
--------------------------------------------
「12.角錐とは、数個の平面載って囲まれ、一つの平面を底面とし、一つの点を頂点としてつくられる立体である」
「18.円錐とは、直角三角形の直角を挟む辺の一つが固定され、三角形が回転して、その動きはじめた同じところにふたたびもどるとき、囲まれてできる図形である。…」
「25. 立方体とは六つの等しい正方形によって囲まれた立体である」
「26. 正八面体とは八つの等しい等辺三角形によって囲まれた立体である」
「27. 正二十面体とは二重の等し等辺三角形によって囲まれた立体である」
「28. 正十二面体とは十二の等しい等辺等角な五角形によって囲まれた立体である」
--------------------------------------------

 角錐のとんがり部分を頂点と定義しているのみ円錐は直角三角形の回転体として定義しており、頂点の定義がない
 オイラーは多面体定理(面の数+辺の数-頂点の数=2)を発見した。『原論』11巻には39の定理が論証されているが、もちろんその中にオイラーの多面体定理は存在しない。多角形で頂点を定義しておかなければ多面体定理は演繹できないのである。それゆえ、ユークリッド『原論』の演繹システムでは、オイラーの定理を演繹できない

  『原論』第1巻の平面図形の定義で多角形の頂点を定義しておけば、『原論』でもオイラーの多面体定理が演繹できる。多角形の頂点に注目すれば、ユークリッドもオイラーの多面体定理に気づいたかもしれぬ。
 オイラーは18世紀の数学者、『原論』は紀元前300年ころに書かれた。

  中学校数学では、多角形は頂点が定義されているから、四角錐の頂点は5つが正解である。したがって、n角錐の頂点の数は(n+1)。理由は再説する必要がないだろう。

  さて、定義と公理と定理の関係が理解できたかな?

 もうひとつ概念にかかわる問題を片付けたい。錐には円錐、楕円錐、角錐、直円錐、斜円錐、直角錐、斜角錐、その他の錐がある。その他の錐とは、底面の形状がぐにゃぐにゃした曲線を含むものである。これらをまとめた類概念があるが、それが「錐体」である。錐体は類概念で底面の形が多角形または円のような閉曲線と定義されるから、頂点はとんがり部分しか定義しようがない。円錐と角錐に共通な底面の頂点は存在しないのである。
 ぐにゃぐにゃした閉曲線を含むか否かは議論の余地があるかもしれない。概念構造としては錐体という類概念の下に円錐、楕円錐、角錐、その他の錐があるということになるだろう。



<参考>大辞林より
-----------------------------------------
類概念:二つの概念が従属関係にある場合、上位の概念をいう。たとえば、「日本人の男」に対する「日本人」「日本人」に対する「人間」。類
-----------------------------------------
錐体:①平面上の多角形または円のような閉曲線のすべての点と、平面外の一点を結んでできた立体。
-----------------------------------------
頂点:①一番上。最も高いところ。てっぺん。③数学:(ア) 角をつくる二直線の交点。(イ)多角形の辺の交点。 (ウ)多面体の三つ以上の面の交わる交点。 (エ)錐面の各母線の交点。 (オ)放物線とその軸との交点。
-----------------------------------------


*#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26

 #3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26-1

 #3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017 

 #3538 ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n] May 7, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-05-07


ユークリッド原論 追補版

ユークリッド原論 追補版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2011/05/25
  • メディア: 単行本
ブルバキ数学原論〈〔第1〕〉集合論 (1968年)

ブルバキ数学原論〈〔第1〕〉集合論 (1968年)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京図書
  • 発売日: 1968
  • メディア: -


#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 [数学四方山話]

  数学の概念を少し厳密に扱うとしたら、数理論理学の基礎知識が必要になるのだが、高校数学で「第4節 集合と命題」(数研出版『数1』)の知識では間に合わない。
  自然数を例にとって演繹システムと概念規定のありようを検討してみよう。取り上げるテクストは小島寛之著『証明と論理に強くなる 決定版数理論理学の完全解説』(技術評論社)である。

  この本では3つの自然数が取り上げられている。「メカ自然数」「メカ自然数Q」「メカ自然数P」の三つである。これら三つのタイプの自然数は、言語(記号)、公理、推論規則で構成された演繹システム(公理系)として記述されている。これらの演繹システムのモデルは素朴自然数である。
  演繹システムとして一番古いものは中学数学の平面幾何の証明でおなじみのユークリッド『原論』がある。

  受験数学で習う自然数は{1,2,3,・・・n・・・}だが、
数理論理学では、0を含めて自然数ということが多く、本書でもそれに従います」(同書p.215)
 ( これはわたしの推測ですが、数学的帰納法に完全に対応するためにはゼロを含めておかなければならないという事情がありそうです。)
   
「メカ自然数」で使われる言語リストは10項目が挙げられている。論理記号ではないものが5個、論理記号が5個からなっている。前者は{0,S,+,×,:=:}、後者は{¬(でない), ⇒(ならば), V(または), ⋀(かつ), ⊥(矛盾)}である。
  メカ自然数の公理は6個(公理M1~M6)設定されている(同書p.224)。推論規則は「対称律」「推移律」「代入律」「合成律」の4タイプが挙げられている(同書p.227)。これらの公理系から定理1が演繹される。

 定理1:S0+S0:=:SS0   (1+1=2のこと)

  定理4まで解説されている。「素朴自然数で解釈して真であるような論理式は、必ずメカ自然数の体系で演繹できる。また、偽であるような論理式は、その否定型の式がメカ自然数の体系で演繹できる。」(同書p.237)
  メカ自然数は健全性と完全性が確保されていますが、述語論理が制限されているため、「偶数・奇数とか素数などの概念をメカ自然数で表現することができません」(p.244)

  そこで量化記号∀と∃を導入したものがメカ自然数Qである。メカ自然数の公理系はQ3を除いて、メカ自然数の公理を量化記号を用いて書き直したものとなっている。(同書p.247参照)
  数理論理学の教科書では「ロビンソンのQ」とか「ロビンソン算術」と呼ばれている。量化記号を使うために「変数」記号xが導入されている。量化記号を導入したことで、メカ自然数Qでは不等号を使わずとも大小関係が演繹できる。
  ところが、メカ自然数Qでは、加法の交換法則が演繹できない。このようなメカ自然数Qの難点を解消するために数学的帰納法の原理が公理に導入される。メカ自然数Pは「ペアノの算術」(ペアノは19世紀の数学者)と呼ばれている。その公理はメカ自然数Qに「公理Ind」(数学的帰納法の原理)を加えたものである。(p.275)
 
  どの(述語論理の)公理系でも推論規則は同一だから、公理系たちに見られる定理の違いは公理の違いから来る。(p.289)
  もちろん、言語(記号やその定義)が違っても定理に違いが出ることは言うまでもない。演繹システムに違いができるからだ。

  メカ自然数⇒メカ自然数Q⇒メカ自然数P

 この流れを見ると、右に行くほど使われる言語や公理が豊かになっている。簡単なものからより複雑なものへ、抽象的なものからより具体的なものへという流れがある。これらは演繹体系の展開に共通している。
 ユークリッド『原論』ではn多角形を三角形から初めて順次nの数を増やしていく。空間図形は平面を複数前提とするから、平面図形のあとで展開される。より単純なものからより複雑なものへという流れは演繹体系に共通といってよい。

  論旨をまとめておく。
  演繹系は言語と公理と推論規則からなっており、それらをひっくるめてモデルと称する。推論規則はどのモデルでも同一だが、言語と公理が違えばモデルに違いが出るのは自明だろう。自然数を例にとれば、メカ自然数とメカ自然数Q、メカ自然数Pは演繹システムが違う。そして数学的帰納法にはメカ自然数Pが使われている。現代数学の自然数概念は数学的帰納法と分かちがたく結びついている。


<余談ー1>
  じつは、メカ自然数Pの完全性(negation complete)はゲーデルによって成立しないことが証明されている。

ゲーデルの定理
 メカ自然数Pには、その言語で表現できる閉じた論理式φで、φも¬φもできないものが存在する(p.291)

 ここから先は、数理論理学の教科書を1冊マスターしてから、ゲーデル『不完全性定理』を読めというのが著者のガイドだ。それで岩波文庫版でいま読んでいる。訳注を含めて証明自体は57ページのコンパクトなものだが、さっぱりわからない。「ヒルベルト計画」を中心に置いた長大な解説を含めて310ページの本の、ようやく250ページあたりまで来た。解説部分は不完全性定理の証明の部分に比べると難しくない。読み終わったら、もう一度ゲーデルの証明部分を読んでみる。並行して記号論理学の教科書を1冊、そして集合・位相について書いた本を1冊、読んでいるが、時間がかかりそうだ。早く読んでもわからないから、試行錯誤しながらゆっくりでいい。

  次回は、ユークリッド『原論』を取り上げて、あの演繹体系で四角錐や円錐の頂点がいくつになっているのか御覧に入れたい。言語・公理・推論規則で構成される演繹体系と平面図形の頂点や立体の頂点の数は密接な関連がある。

  ユークリッド『原論』では、三角形に頂点はない、円錐にも頂点はない、角錐の頂点は一つ。なぜそうなっているのか、言語・公理と関係がある。ユークリッド原論では言語は「定義」、公理は「公準と公理」となっている。ユークリッド『原論』では平面図形の定義に「頂点」が含まれていない。じつに面白いのである。  

 <余談ー2>
 演繹体系として数学に興味があるのは、経済学とりわけマルクス『資本論』との類似点が多いからだ。労働は苦役であるというのが西洋経済学の公理である。これを日本的職人仕事観に置き換えたら、まったくことなる経済学が展望できる。世界中の経済学者でこんなことを主張している者は一人もいない。
 わたしは、そういう視点から数学の演繹体系に興味がある。カテゴリー「資本論と21世紀の経済学」にまとめてあるのでお読みいただけたらうれしい。

*#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26

 #3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26-1

 #3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017 

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-30

 #3538 ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n] May 7, 2017 

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-05-07



証明と論理に強くなる  ~論理式の読み方から、ゲーデルの門前まで~ (知の扉)

証明と論理に強くなる ~論理式の読み方から、ゲーデルの門前まで~ (知の扉)

  • 作者: 小島 寛之
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2017/01/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

#3532 統合後の根室高校普通科の学力低下を憂う Apr. 22, 2017 [データに基づく教育論議]

 四月に根室西高校と根室高校が統合された。根室高校普通科の生徒たちの学力はどうなっただろう?
 数学の習熟度別振り分けテスト結果から判断してみたい。

クラス別平均点
 Aクラス           72点
 B~Dクラス 41-43点

  問題の難易度はとても低い。合格書類と一緒に渡されたスタディサポートの数学の問題は30ぺージほどあったはずだが、それを一通りやっていたら80点以上取れる代物。一番最後の問題は、高さ24cm、底面の半径10cmの円錐の表面積を求める問題だった。問題集そのまま。


  Aクラスは「特進コース」であるが、それぞれの事情で特進コースを辞退した生徒数人いる。数学のクラス分けは、合宿研修時のテストと入試の点数から振り分けがなされ、次のようになった。

 ガンマ1       20人
 ガンマ2       15人
 ベータ1       40人
 ベータ2       35人
 アルファ1    25人
 アルファ2    20人
    合計       155人

  特進コースのA組がガンマクラス、BCD組はその下に位置づけられている。

 数年前までは普通科全体の平均点が70-75点であった。平均点から判断すると、A組が数年前の普通科全体の学力分布とほぼ同じと言えそうである。ベータ2以下は根室西高の学力レベルと判断して間違いがない。
 根室高校普通科は今年の新入生から数学の教科書を変更した。2年生と3年生は数研出版の教科書で、新1年生は東京書籍「数1 Standard」とその準拠問題集を使用している。教科書会社は学力レベル別に数種類の教科書とそれに対応する問題集を制作しており、今回採用された教科書はわかりやすく編集されている。準拠問題集の難易度レベルは格段に低下した。最初の因数分解の箇所だけチェックしたが、難易度の高い問題は全く載っていない。中3の生徒に「数1 シリウス」をやらせているが、問題の難易度が比較にならない。
 準拠問題集を数回繰り返しても、進研模試の問題のほとんど(80%)が解けないだろう。

 ベータ1クラスの生徒によれば、問題集をもう一冊購入することに決まったらしい。難易度が低すぎるので、学校ではもう少し難易度の高い問題集で補完するようだ。
 学力差が大きいので、同じ教科書や同じ問題集を使うのは無理だと弊ブログで何度も書いてきたが、高校問題検討委員会はそういう学力差を無視して統合後の高校の姿を決めてしまった。具体的なデータに基づかぬ議論は誤りを犯すと警告したが無駄だった。

 中学校の学力テストで、五科目500点満点で400点を超える生徒が市街化地域の3校で十年前には、それぞれ十数人いた。いま、各校では学年に一人のところが増えている。この数年間に学力トップ層が激減しているのである。学校の授業は高学力層にまるで対応できていない。授業のレベルは低いところに照準を合わせて、高学力層がスポイルされている。この状況は釧路も同じで、釧路湖陵高校の学力が低下している原因の一つと、釧路の学校教育行政が考えている。

 4月13日に中学校で学力テストが行われた。C中学校の数学の平均点は16点だが、前年4月の同じテストは19点だった。これは釧路市内の14中学校の最底辺校(19点)よりも低い。60点満点で31点以上は59人中5名のみ。普通に勉強していれば中3学力テストの数学は、学力が低くても30点以上とれるはず。4月13日実施の学力テストでC中は10点以下が59人中23人、20点以下は40人(67.8%)である。B中も61.8%が20点以下である。この学力層の生徒たちは昨年まで根室高校普通科で採用されていた問題集は消化できないし、授業内容も理解不能である。
 高学力層は60点満点で51点以上だが、C中学校では学年トップのみ、B中学校はゼロという情けない状況だ。60点満点の学力テストで30点以上の生徒の振り分けテストの平均点は80点を超えただろう。

-----------------------------------------------------
新高校1年生の生徒たちの中3の時の数学の平均点を、4月学力テスト・総合ABCの順に並べる。
 光洋中学校 23.9⇒19.2⇒18.4⇒17.6
 柏陵中学校 23.1⇒19.7⇒20.6⇒17.7
 啓雲中学校  19  ⇒  16 ⇒ 16 ⇒ 16

 どの中学校もこの数年間の学力低下が著しいが、釧路の14中学校の最低レベルかそれ以下というのが実態である。釧路の平均値ぐらいはクリアしてもらいたい。5年ほど前はそれくらいだったのだから。
-----------------------------------------------------


 同じ教科書でやるのは無理だから、普通科は2クラスか1クラスで十分で、2-3クラスは科を変えるべきだ。統合によって学力差が拡大してしまったので、普通科に準じた科を併設するしかないのである。
 このままでは、根室高校普通科が「学力崩壊」を起こす。教育行政と学校関係者は、根室の子供たちと町の未来のために、学力データに基づいたあるべき姿をもう一度議論すべきだ。

 地元の経済団体は教育問題にもっと発言したほうがいよ。あなたたちが経営する企業の未来に直接かかわる問題だから。

<余談>
 問題なのは数学よりも国語かもしれない。読書習慣のない生徒が増えている、読書習慣があってもアニメのノベライズもの程度の本にとどまっているものが多い。そういう子供たちが高校現代国語に載っている文章を理解すののは甚だしく困難である。語彙力が貧弱だから、耳で聞いても頭の中で漢字に変換できない。それができなければ、授業は外国語でなされているのと変わらない。数学も英語も世界史も理解科目も授業は日本語でなされている。普通科の1/4は日本語語彙力が著しく劣り、授業内容が理解できないだろう。C中学校社会担当のN先生がやっていたように、語彙解説をしながら授業をせざるを得なくなる。根室高校の先生たちの戸惑いは始まったばかりだ。
*#1475 お迎えテスト :〔人災〕全道14支庁管内最低の学力はこうして造られる Apr. 14, 2011 

#3531 生徒の質問:学力テスト数学問題 Apr. 13, 2017 [数学]

  中学校の学力テストが今日(4/13)実施された。中3の生徒が問題用紙をもってきて、「最後の問題がさっぱりわからなかったので解説してほしい」と要求がありました。面白い問題なので紹介します。

 大問6: 右の図で、Oは原点、2点ABの座標はそれぞれ(3, 9)、(9,3)です。また、点PQはそれぞれ線分OA、AB上にあり、AP:OP=1:2とします。下の問いに答えなさい。
 問1:四角形POBQが台形となるとき、直線PQの式を求めなさい。
 問2:四角形POBQの面積が△APQの面積の5倍になるとき、点Qの座標を求めなさい。

 このテキストエディタでは図が描けないので、各自描いてみてください。
 質問した生徒は問1は簡単に解いています、問2がどうやったらいいのかさっぱりわからなかったそうです。

 問題を黒板に写しながら、条件を整理します。△AOBの面積は計算可能ですが、計算はせずに攻略の道筋をつけることを優先します。
 条件から△AOBの面積の1/6が△APQです。ではAB上のどこにQ点を取ればいいのかということになります。そこで別の条件との組み合わせをやってみます。AP:PO=1:2ですから、APを底辺とするとAOの1/3、ここまで整理してピンときました。高さが半分になれば△APQの面積は△AOBの1/6になります。
 問題を言い換えると、線分ABの中点座標Qを求めよという問題なのです。そのことに気が付くのは数学のセンスの良い生徒です。この種の問題をやったことがあれば解くのは簡単ですが、初めてのタイプだったら案外解けません。同種問題なら次回以降はこの生徒には楽勝です。初見のタイプの問題にもなんとか工夫して時間内に解き切ってほしいと思います。
 問題を解くカギは問題文に示された条件すべてを利用すること

<3項問題>
 高2の生徒が二項定理の章の予習をやっていました。

   (a+b)^n=nCoa^n + nC1a^(n-1) b + nC2a^(n-2) b^2 + ・・・+ nCra^(n-r)b^r + ・・・+ nCnb^n

 二項定理の問題をやり終わった後に三項問題に進んで質問がありました。公式の利用の仕方がわからないというので、具体的に計算して見せるだけです。

 問: (1+2a-3b)^7  の a^2b^3の項の係数を求めよ

 利用する公式は、
      分子:  n!       a^p b^qc^r
      分母:  p!q!r!
        ・・・p+q+r=n
 この式に代入すればいいだけで、あとは計算力の問題。かっこの中の文字にはそれぞれ係数がついているのでそこだけ注意すればいい。答えはー22680です。

 さて、ここからがお遊び。この公式を四項に拡張できるかと生徒に投げかけました。手間暇はかかりますがやってやれないことはないでしょう。宿題にしました。(a+b+c+d)^5 で試してみたらいいのです。a+b=s、s+d=tとして(s+t)^5を計算し、元に戻してさらに計算すればできます。
 三項の公式を二項に縮小してみたらわかりますが、OKです。

 こういうふうに、上下に「拡張」できるかどうかを「遊び」で確認するのは楽しい。三項の公式は二項でも使えることがすぐにわかります。

 こういう遊びは様々な章で見つかるでしょう。遊んでセンスを磨いてください。
 「これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」です。


メッセージを送る