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オバマ大統領就任演説を読む ブログトップ

オバマ大統領就任演説を読む(5) [4, 5] [オバマ大統領就任演説を読む]

オバマ大統領就任演説を読む(5) [4, 5]

 前回と同じ段落を北海道新聞の訳をつけておく。道新のほうが読売新聞よりもしっかりしているように私には見える。道産子の身びいきかもしれない。

(4) That we are in the midst of crisis is now well understood. Our nation is at war, against a far-reaching network of violence and hatred. Our economy is badly weakened, a consequence of greed and irresponsibility on the part of some, but also our collective failure to make hard choices and prepare the nation for a new age. Homes have been lost; jobs shed; businesses shuttered. Our health care is too costly; our schools fail too many; and each day brings further evidence that the ways we use energy strengthen our adversaries and threaten our planet.

〈北海道新聞訳〉
(4) われわれはいま危機の真っ只中にある。われわれの国は、果てしなく続く暴力と憎しみのネットワークと戦争状態にある。一部の強欲下無責任な人々のせいだけでなく、皆が困難な道を選び次の世代に備えることができなかった結果、経済はひどく脆弱になってしまった。家を失い、仕事は減り、商売は行き詰った。医療費は高すぎ、学校制度は明らかに失敗している。われわれのエネルギーの使い方が、を強化し、地球を動かしているということが日々明らかになるばかりだ。
〈読売新聞訳〉
(4) 我々が危機の最中にいることは、現在では明白だ。我々の国家は、暴力と憎悪の広範なネットワークを相手に戦争を行っている。我々の経済は、ひどく弱体化している。一部の者の強欲と無責任の結果であるだけでなく、厳しい決断をすることなく、国家を新しい時代に適合させそこなった我々全員の失敗の結果である。家は失われ、職はなくなり、ビジネスは台無しになった。我々の健康保険制度は金がかかり過ぎる。荒廃している我々の学校はあまりにも多い。さらに、我々のエネルギーの消費のしかたが、我々の敵を強化し、我々の惑星を脅かしているという証拠が、日増しに増え続けている。

health careは「医療費」、our schoolsは「学校教育」、our planetを「この地球」と私は訳したいので、読売訳よりも道新訳のほうが好みにあっている。
 our adversariesは具体的には「ロシアとイスラム教国」だろう。キリスト教原理主義の国の敵といえばそうなる。当たり前と言えば当たり前だが、ストレートな言い方を避けた。


(5) These are the indicators of crisis, subject to data and statistics. Less measurable but no less profound is a sapping of confidence across our land - a nagging fear that America's decline is inevitable, and that the next generation must lower its sights.


〈北海道新聞訳〉
 これらはデータや統計で示すことができる危機の指標だ。測ることはできないが、同様に深刻なのは、自信喪失が全土に広がっており、米国の衰退は避けられず、次の世代は下を向いて生きなくてはならないという恐怖だ。
〈読売新聞訳〉
 これらは、データと統計に基づく危機の指標だ。予測は困難だが、間違いなく深刻なのは、我々の国土に広がる自信の喪失や、米国の凋落(ちょうらく)は避けがたく、次の世代はうなだれて過ごさなければならないというぬぐいがたい恐怖だ。
〈朝日新聞訳〉
 これらは、データと統計で示される、危機の指標だ。測定はより困難だが同様に深刻なのは、米全土に広がる自信の喪失だ。それは、米国の衰退が不可避で、次の世代は目標を下げなければいけないという、つきまとう恐怖だ。

the next generation must lower its sightsを道新は「次の世代は下を向いて生きなくてはならない」と訳出した。これは読売と類似の解釈だ。朝日訳を見てもどれがいいと言うことはない。
 文脈から判断すると、「次の世代は生活レベルを下げざるを得ない、そうした光景を目の当たりにすることになる、それが振り払っても振り払ってもぬぐいえない(もはや確信に近い)恐怖の正体である」。そうした意味がコンパクトな日本語で表現されればよい。しかし、コンパクトな、切れる日本語で表現しえた新聞社はないようだ。もちろん前回ブログに書いた私の訳も冗長の謗りはまぬがれない。 
 やれやれ・・・

 2009年2月9日 ebisu-blog#530
  総閲覧数:76,285 /440 days(2月9日23時35分


オバマ大統領就任演説を読む(4) [4, 5] [オバマ大統領就任演説を読む]

オバマ大統領就任演説を読む(4) [4, 5]

 今日のテクストはオバマ大統領の就任演説の4段落目と5段落目である。検索の便宜を考慮して新しいカテゴリー「オバマ大統領就任演説を読む」を立てた。

(4) That we are in the midst of crisis is now well understood. Our nation is at war, against a far-reaching network of violence and hatred. Our economy is badly weakened, a consequence of greed and irresponsibility on the part of some, but also our collective failure to make hard choices and prepare the nation for a new age. Homes have been lost; jobs shed; businesses shuttered. Our health care is too costly; our schools fail too many; and each day brings further evidence that the ways we use energy strengthen our adversaries and threaten our planet.

〈読売新聞訳〉
(4) 我々が危機の最中にいることは、現在では明白だ。我々の国家は、暴力と憎悪の広範なネットワークを相手に戦争を行っている。我々の経済は、ひどく弱体化している。一部の者の強欲と無責任の結果であるだけでなく、厳しい決断をすることなく、国家を新しい時代に適合させそこなった我々全員の失敗の結果である。家は失われ、職はなくなり、ビジネスは台無しになった。我々の健康保険制度は金がかかり過ぎる。荒廃している我々の学校はあまりにも多い。さらに、我々のエネルギーの消費のしかたが、我々の敵を強化し、我々の惑星を脅かしているという証拠が、日増しに増え続けている。

(5) These are the indicators of crisis, subject to data and statistics. Less measurable but no less profound is a sapping of confidence across our land - a nagging fear that America's decline is inevitable, and that the next generation must lower its sights.

〈読売新聞訳〉
 これらは、データと統計に基づく危機の指標だ。予測は困難だが、間違いなく深刻なのは、我々の国土に広がる自信の喪失や、米国の凋落(ちょうらく)は避けがたく、次の世代はうなだれて過ごさなければならないというぬぐいがたい恐怖だ。
〈朝日新聞訳〉
 これらは、データと統計で示される、危機の指標だ。測定はより困難だが同様に深刻なのは、米全土に広がる自信の喪失だ。それは、米国の衰退が不可避で、次の世代は目標を下げなければいけないという、つきまとう恐怖だ。
〈毎日新聞訳〉
 これがデータや統計が示した危機だ。全米で自信が失われ、アメリカの没落は必然で、次の世代は多くを望めない、という恐れがまん延している。
〈Gooニュース訳〉
 どれもこれも危機の指標として、データや統計で計れるものです。それに比べて、数字では計りにくいが同じくらい重大なのが、国中にはびこる自信の喪失です。アメリカの衰退は避け難いものだという、いかんともしがたい恐怖。そして次世代の国民は期待の水準を下げなくてならないという不安。こういう自信の喪失のことです。


《解説》
 4段落目はとくに問題がない。高校生には構文が掴まえにくいようで、授業では構文解説をした。 our planetは「われわれの惑星」では硬いので、「この地球」でもいい。

 Hirosukeさんが5段落第2文の各社の訳に疑問を呈している。この文はおそらくはスラッシュ・リーディングでも音読10回でもピンと来なかった文だろう。理由は後ほどわかる。別のアプローチが必要だと感じたのかもしれない。

 この文はプロの翻訳家が苦し紛れに訳を「勘」に頼って処理する典型的なものである。だから「勘違い」も生ずる。各社の訳にばらつき大きく意味不明であるところがその証左であろう。この種のミスは個人訳の本にたまに見られる。「慣れた翻訳者」ほどミスを犯しやすい。
 各社の訳は支離滅裂といって差し支えない。「イミ」と「キモチ」が読めていないからだろうか。
 それほど難しくはないので高校生にもわかるように解説してみよう。並べた各社の訳を読んでから、ebisuの訳文と比べられたい。

 問題の文の後に主語を説明する文がつけられているので、前のほうの文の主語が倒置されて後方へ移動したのでわかりにくい。元に戻していくつかのセンテンスに分解してみれば、格段に意味がとりやすくなる筈である。英語の攻略の仕方は十人十色でいろんなやり方があって良い。
 書かれた英文の97%以上はこのような面倒なことをせずとも理解できる。だから、イメージをしながらの音読トレーニングは英語を使う場合に強力なトレーニング法たりうるのである。

 変形文法だと完全なシンプル・センテンスにまで分解するが、私の目的は意味をつかむことなので、デカルト方式で「問題をよりよく解くために必要なだけの小部分へ分割すること」を目標にする。意味をつかむためなら実用上そこまでで十分なのだ。英文理解のための一つの技だと思ってくれてよい。
(読みながら並行して臨機応変にシンプル・センテンスに分解して内容を理解する習慣が身につくとこういう文の意味がとりやすくなる)

 [1] A sapping of confidence across our land is less measurable [than data and statistics].
  [2] A sapping of confidence across our land is no less profound [than any other things] or [than data and statistics].

 ①米国に蔓延する自信喪失はデータや統計として測定しがたい性質のものである。
 ②米国に蔓延する自信喪失はなによりも一番(データや統計が現すものよりも)重要性が大きい。

そしてa sapping of confidence = a nappinng fear、同格である。大西先生流に言えば、後ろのnapping fearが前のa sapping of cofidenceを説明しているだけ。

 [3] It is a napping fear that America's decline is inevitable
  [4] It is a napping fear that the next generation must lower its sights.

  [5] its sights ⇒ the next generation's sights 
  [5'] the next generation will see the sights or the next generation will face the sights they must lower [in the future].
 
 ③米国の衰退が避けがたいものであるという漠然とした不安
 ④次の世代が質の下げざるを得ないという漠然とした不安、そして次の世代がそういう質の低下した現実を目の当たりにせざるを得ないという漠然とした不安
 ⑤はちょっと付け足しすぎかな?これくらい補って考えてもいいだろう。

 sappingとnappingで音が響きあう。韻を踏むというらしいが、英詩はほとんど読んだことがない。音が面白い文章ではある。
 4段落目でさまざまな具体例を挙げて米国が危機にあることを説明した。そうしたデータや統計に危機が現れていると述べた後で、指標として現れない米国の国家としての自信の喪失や、将来へのぬぐってもぬぐってのぬぐいきれない不安が何よりも重要性が大きいと述べている。オバマはこれを強調したかった。この文の「キモチ」と「イミ」である。
 敷衍すればこうなる。第4段落で戦争、経済、医療、教育での失敗をひとつひとつ数え上げ、危機の具体的な説明をして、そのあとで、さらにもっと根本的な何か、国家としての自信喪失すなわち将来へのぬぐいきれない不安の存在が大問題だとオバマは指摘している。集団的無意識がぬぐいきれない不安や国家の自信崩壊となって米国を覆い尽くしてしまった。この集団的無意識はまもなく自己を実現せずにはおかない。現実化することになる。したがって、米国の将来は暗く長いものとなるのだ。米国の覇権の時代が終わった。

 一般的なことを先に言い、その後で具体的な事例を挙げるのがありきたりの論理展開である。ところがオバマはここで逆のことをやってのけ、問題の本質をえぐりだす。

 定式化すると、「特殊⇒一般」型、あるいは「具体的事例⇒抽象的なもの」図式である。帰納的推論と言い換えてもよい。こうすると抽象的な推論が客観的な根拠のあるものとなる。作文するときに有効だから、覚えておいてよい推論形式である。

 オバマにとって国家としての自信崩壊や将来への漠然とした不安を国民が抱き始めていることがより本質的で最重要な問題なのだ。データや統計として目に見えるものよりも、目に見えない不安や自信崩壊のほうがはるかに重要である。おそらくそれは正しい予感であり、まもなくその予感は実現する。だからそれに備えようとオバマは国民に語りかけている。甘い幻想はなしだ。きつい現実と正面から向き合う覚悟を国民に求めたものと理解できる。
 さて、そういうことを踏まえてつたない訳を試みる。

〈ebisu訳〉
 「米国中に広がっている(政治的・経済的影響力あるいは政治・経済的覇権掌握への)自信崩壊は統計やなんらかのデータとして測定可能なものではない。だからと言って重要性が小さいのではなく、その重要性は統計やさまざまなデータがあらわしている危機よりもはるかに大きい。米国が直面している重要問題がここにある。
 米国の衰退がすでに避けられない局面へ入っていることや次の世代が現在よりも質を落としたさまざまな現実を目の当たりにせざるをえないということが、漠然とした不安すなわち全土を覆いつつある自信喪失の淵源をなしている。」

 わたしはある程度シンプル・センテンスに分解して意味をつかめば、日本語としてわかりやすい表現を心がければいいと思う。用いる語彙を選択することで少しは品のよい文章にも仕上げられるが、それは適時適切に使い分けができればいい。学術論文ならその辺りに少し気を使うべきだろうが、就任演説だから日本語として意味がわかりやすければいい。
 上述の訳文は説明的で少々長くなってしまったのが欠点であるので、あまり薦められない。文章の切れのよさを意識すれば、大鉈をふるってコンパクトにすべきだろう。
 どうぞ各自の訳を試みよ。私には真似ができないが、永井荷風の『断腸亭日乗』のような切れのよい日本語が理想だ。

 *ニムオロ塾のジャパンタイムズを使った時事英語授業は面白いぞ!

*読売新聞「オバマ大統領就任演説対訳」
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081107-5171446/fe_090121_01_01.htm

**Hirosukeさんのブログ『オバマ大統領の就任演説で英語を学ぶ』
http://obama-de-english.blog.so-net.ne.jp/2009-02-06#more

 2009年2月9日 ebisu-blog#529
  総閲覧数:76,013 /440 days(2月9日12時00分


オバマ大統領就任演説を読む(3) [1, 2, 3] [オバマ大統領就任演説を読む]

オバマ大統領就任演説を読む(3)

(1)  My fellow citizens:

 I stand here today humbled by the task before us, grateful for the trust you have bestowed, mindful of the sacrifices borne by our ancestors. I thank President Bush for his service to our nation, as well as the generosity and cooperation he has shown throughout this transition.

(2)  Forty-four Americans have now taken the presidential oath. The words have been spoken during rising tides of prosperity and the still waters of peace. Yet, every so often the oath is taken amidst gathering clouds and raging storms. At these moments, America has carried on not simply because of the skill or vision of those in high office, but because We the People have remained faithful to the ideals of our forbearers, and true to our founding documents.

(3) So it has been. So it must be with this generation of Americans.


(1) 市民の皆さん。私は今日、我々の前にある職務に対して厳粛な気持ちを抱き、あなた方から与えられた信頼に感謝し、我々の祖先が支払った犠牲を心に留めながら、ここに立っている。私は、ブッシュ大統領の我が国への奉仕、並びに大統領がこの政権移行期間に示した寛容さと協力に感謝する。
(2) これで44人の米国人が大統領就任宣誓を行った。宣誓は、繁栄の高まりのときや、平和で静かなときに行われたこともあった。しかし、しばしば、宣誓は、暗雲が垂れこめるときや荒れ狂う嵐のときに行われた。こうした時、米国は、指導者たちの技量や理念だけに頼ることなく、我々人民が祖先の理想に忠実で、建国の文言に正直であることによって、乗り切ってきた。
(3)  ずっとそうやってきた。この世代の米国人も同様にしなければならない。
 

《解説》
  偉そうに"解説"しているが、私の自由気ままな解釈を述べているに過ぎないので、期待しないで気楽に読んでいただきたい。もちろん、文章にはいろいろな解釈があっていい。北海道新聞と読売新聞の翻訳文を読み比べてみてもそこここに原文の解釈に違いがある。あれこれ、いじくり回してみること、それが勉強の楽しさだ。わたしは一つの解釈を提示するのみである。

 第1段落の文章は高校生には少し難しいかもしれないから、文法点描で解説する。
  hereは歴代の大統領が就任演説をすることになっているこの場所をさす。オバマはいまその場所に立っている。the taskはオバマが支援者に約束したイラクへからの撤退、アフガンへの関与、金融危機への対処など、山積する国内外の課題、それを大統領として一身に担う職務として厳粛に受け止めてこの就任演説の場に立っているのだと語りかけている。「大統領としての職務」をいう意識が強く出たから、tasks ではなく"the task"と定冠詞がついて単数なのだろう。複数形にすると大統領としての職務という重みが失われる。"humbled by"が有効に機能している。Forty-four Americansはもちろん44人の大統領だ。
 オバマはこの段落を前任者ブッシュ大統領への謝辞で締めくくった。よくあるビジネス文書の典型である。わたしもしばしばビジネス文書では謝辞を入れることを心がけた。送ったほうも送られたほうも気分がいいし、相手とのコミュニケーションもよくなる。
 第2段落でオバマは就任宣誓が二通りの状況下でなされてきたことを説明する。"the still waters of peace"は、凪の穏やかな海を想像させる語である。watersという語は新聞英語では時々お目にかかる。exclusive economic waters(排他的経済水域)のように「水域」という意味で複数形で使われる不可算名詞であるが、ここでは水の量の多さを強調しているだけだろう。woodsが森を意味するように、ここではwatersは海を意味している。
 peaceやpacific oceanで連想するのはマゼランの世界一周である。1520年スペインを出てから南米大陸南端のホーン岬を回ると、途端に嵐の海が凪に変わった。それでEl Mare Pacificum(静かな海)と名づけられ、英訳されてpacific oceanとなった。語幹のpacは平和条約pactや平和peaceに使われているようにさまざまな派生語を生み出している。そしてwatersをtidesと並べて使うことでイメージが重なり、言葉に調和した響きが感じられる。


《文法点描:
 I stand here today humbled by the task before us以下を完全な文に書き直すと次のようになる。
 I am grateful for the trust you have bestowed.
  I am mindful of the sacrifices borne by our ancestors.

これらがつながって1文になることで、同一主語と一緒にbe動詞
が省略される。
 I stand here today humbled by the task before us, (being) grateful for the trust you have bestowed, (being) mindful of the sacrifices borne by our ancestors.
このように分解すれば、意味がつかみやすいだろう。

(3)の指示代名詞itは何を指しているのだろう?こういうときは省略されている部分を補ってみよう。
 So it has been [carried on by America].
  So it must be [remaind by us] with this generation of Americans.

  「
米国はいままでそうしてきたし、だからこそ、同じ世代を生きる米国人たちもともに次世代へ[being faithful to the ideals of our forebears and being true to our founding documents]であることを伝えていかねばならない」と主張しているのだろうか。
 itは漠然としたitのようにみえる。あえていえば、「祖先の理想に忠実であること、そして建国の文言に誠実であること」だろうか。これら二つを受けてしまうと複数になるから指示代名詞はitではありえない。だから漠然としたitと解釈した。Americaを受けているという解釈もありうる。議論の余地のある部分だ。
 強引に敷衍すると「いままで祖先の理想に忠実に、そして建国の文言に誠実に国を運営してきたが、これらは現在、米国を担っている世代が力を合わせて守り続けていかねばならない政治の原理原則である」とオバマは謳っている。
 現在完了形の文とmust beの文を併記してsoを繰り返し使うことで、一つの価値観が形を変えずに時代を超えて受け継がれていく様を聴き手にイメージさせる。

2月6日追記
(3)の解釈は間違っていたようです。今日授業をしていて生徒に説明して気がつきました。
 carry on も remain もどちらも自動詞です。だからhas been carried onも has been remainedもありえません。すなおにそのまま解釈すればよかった。
 It is so.のsoが強調されて前に出てきて、現在完了で表現されたもののようです。「そのようにある」(単純現在)⇒「そのようにいままであり続けてきて、いまもそうある」(現在完了)、このように解釈すべき文だったようです。そのあとの "So it must be with this generation of Americans."は現在と未来のことについて語っています。「この世代の人々とともにそのようにあらねばならない」、つまり現在の世代の米国人が建国の精神を次の世代に橋渡ししなければならないとオバマは語っているようです。
 ItをAmericaと解釈すれば、「米国はいままでそう(建国の文言に忠実)であったし、これからも現役世代と共にそう(建国の文言に忠実で)あるべきだ」という意味になる。Soを接続詞に解釈する余地もある。文脈からどれが妥当性が高いかを判断し、訳を選ばなければならない。

 現在完了形が多用されていることに気がつけば、オバマが現在の状況に意識の焦点を絞っていることがわかる。過去のことは現在との関わりにおいて語られているのだ。現在完了の用法はこういう文章をたくさん読むことで、一つのイメージとして理解できてくる。

  私はニムオロ塾で時事英語を教えるときにはスラッシュ・リーディングを併用している。受験用テキストの読解速度を上げるために有効だからだ。Hirosukeさんのブログにあるスラッシュリーディングテキストはたいへん参考になる、併せて読んで欲しい。時事英語授業の雰囲気がつかめるだろう。
 ただし、スラッシュ・リーディングでは読めない文はある。日常会話や込み入ったレトリックが使われていないこと、そして変形文法でいう文法工程指数が高くない文にのみ、スラッシュ・リーディングが通用する。このことは機会を見つけてもうすこし説明しておくべきだろう。スラッシュ・リーディングはコンテキストのチェックがしづらいし、読み手の勝手な推測で文意の取り違えが起きやすいことも要注意だ。
 すべからくテクニックにはそれに固有の適用限界がある。そこを心得ていれば実害を小さくすることができるというのが私の経験智である。そのことは普遍的な真理であるようで英語の勉強に限らない。
 Hirosukeさんの意見を伺ってみたい気がする。英語を勉強する動機の違いから、いろいろな分野の英文理解上の問題点がくっきりと浮かび上がれば面白いのだが・・・以下はHirosukeさんのブログアドレスである。
  
http://obama-de-english.blog.so-net.ne.jp/2009-01-24-1
 
《根室の高校生の皆さんへ》
 言葉のニュアンスを翻訳文で伝えることは難しい、というよりも不可能である。もしやろうとすれば、翻訳文に解説をつけなければならない。原文の数倍の解説を書いてもなお伝えきれない部分が残る。だから、翻訳文を読むだけでなく、原文そのものを読む必要がある。原文の魅力を味わいたい人は英語の勉強を徹底すべきだ
 ニムオロ塾は英語がわからなくなった生徒ばかりでなく、原文の魅力を味わいたいという志の高い生徒の塾でもある。小数でレベルがさまざまな根室の生徒のためには個別指導が最適だ。
 職権でセイコーの無人の腕時計組み立てラインを見学させてもらったときの事を思い出す。多品種少量生産のためにアーム型ロボットを開発して、工場へ導入していた。十数台で一つのラインを構成していた。それが一つの部屋に3ライン並んでいた。もう20年以上前のことになる。
 人口の少ない田舎には様々なレベルの生徒が小数ずついる。都会と違って同じレベルの生徒を多数集めるわけにはいかない。根室のようなところこそ個別指導がふさわしい。

 就任演説原稿(原文・翻訳)は勉強の材料としては高校生には少し難しいかもしれないが、欲しい人は塾生でなくてもあげるから、ちょっと寄って、「こんにちは、オバマ大統領の就任演説原稿がほしいのですが」と声を掛けてくれればいい。

 *原文テクスト、和訳ともに今回から読売新聞のものを掲載した。前回紹介したHirosukeさんのブログに貼り付けてあった読売新聞の対訳を利用させてもらっている。
 (1)(2)(3)は私がつけた段落通し番号である。

  2009年1月29日 ebisu-blog#508
  総閲覧数:70,656 /429 days(1月29日0時00


オバマ大統領就任演説を読む(2) [23] [オバマ大統領就任演説を読む]

オバマ大統領就任演説を読む(2) [23]

(23)  Our challenges may be new. The instruments with which we meet them may be new. But those values upon which our success depends ― hard work and honesty, courage and fair play, tolerance and curiousty, loyalty and patriotism ― these things are old. These things are true. They have been the quiet force of progress throughout our history. What is demanded then is a return to these truths. What is required of us now is a new era of responsibility -- a recognition, on the part of every American, that we have duties to ourselves, our nation, and the world, duties that we do not graudgingly accept but rather seize gladly, firm in the knowledge that there is nothing so satisfying to the spirit, so defining of our character, than giving our all to a difficult task.


(23) われわれの試練は新しいものかもしれない。それに立ち向かう手段も新しいものかもしれない。われわれの成功は、勤勉、誠実、勇気、フェアプレイ、寛容、好奇心、忠誠心、そして愛国心といった価値観にかかっている。これらは古くからあるものだが、真理である。これらの価値観は歴史を通じて、進歩をもたらす静かな力であり続けてきた。必要なのは、こうした真理に立ち返ることだ。今われわれに求められているのは、新たな責任の時代だ。すなわり、米国民一人一人が、自分自身やわれわれの国家、世界に対して責務を負っていることを認識することだ。自分のすべてを困難な課題に注ぎ込むことほど充実感が得られ、われわれを特徴付けるものはないとの信念を持ち、いやいや受け入れるのではなく、むしろ喜んで受け入れる責務なのである。

《解説》
  選挙中の演説と際立った対象をなしているのは、アジテーションをそぎ落としていることである。押さえた表現の中に、聴衆はなにか決意のようなものを感じたのではないだろうか。

 棒線部分は江戸期や明治期の日本人の価値観そのもので、敗戦前まで日本人の伝統的価値観の一角をなしていた。こうした価値観を共通項としてもっている最後の世代は団塊世代だろう。
 日本人を支えてきた伝統的価値観は世界的な普遍性をもっているということに日本人自身はあまり気がついてないようだ。武士道や惻隠の情、卑怯を憎むこころなどは国際的にも通用する当たり前の倫理観である。しかし、その当たり前の倫理観を国民性にまで洗練できた国は世界中を見渡しても他には見当たらない。もちろん現在の日本にそうした価値観が世代を貫く共通項として存在していないことを認めざるを得ない。
 オバマはそれが歴史を超えた真理であると宣言し、そこへ帰るのだという。国に何かをしてもらうのではなく、国のために何ができるのかを問うたJFケネディの演説を背景に置き、米国民に価値観の転換を迫ったものと言えるだろう。
 儲けるためには弱者を詐欺同然の金融商品(サブプライムローン)で引っ掛けて、恥を知らない者たちの手から米国を取り戻すつもりなのだろうか。だとしたら、金融危機は神がオバマに与えた絶好のチャンスである。

 ここでいう「愛国心」はpatoriotismという語が充てられている。パトリオティズムとナショナリズムは異なる。ナショナリズムは国家への愛、つまりある政治体制や社会体制への愛である。かつて植民地であった発展途上国にとっては宗主国からの独立を意味し、先進国では偏狭な政治思想を意味する。したがって、patoriotismは国を愛する心ではなく「郷土愛」と言ったほうがぴったりである。
 私事だが、人生を3期に区分して考えていたので、50歳になったら根室へ戻ってなにか故郷の役に立つことをしたいと漠然と考えていた。結局それは私塾を開くことに結実したわけだが、生まれ育った風土への素朴なパトリオティズムから出たものである。願いは紆余曲折をへてかなえられた(神様はけっこう手の込んだことをなさるのだろうか、それとも人間は時間をかけて自分の望む暮らしを実現するようにできているのだろうか、振り返ってみてとても不思議な気がする)。

 オバマは金融資本の強欲ではなく、郷土愛や勤勉さ、寛容、誠実、フェアプレイが米国の成功を支えているという。

《文法点描:may》
 最初の文は助動詞mayの用法の好例であるようのなので採り上げたい。塾ではmayは50%の可能性をあらわし、mightは30%の可能性をあらわすと説明しているが、50%の可能性は、あるかもしれないし、ないかもしれない、どっちつかずの判断保留的な状況を表現する。これではわかったようなわからないような説明になってしまうので、理解を徹底するためには具体例が大切だ。
 文脈に即してニュアンスを具体的に描くとこうなる。試練は新たなものであるかもしれないし、米国が繰り返し直面し乗り越えてきた一連の試練のひとつであるかもしれないmayを使うことで、そのどちらの可能性もありうるとオバマは聴衆に語りかけている。聴き手に判断を任せているともいえる。
 両方の可能性を提示することで、米国が今まで乗り越えてきたし、今度も人種・宗教が異なる国民が、勤勉・誠実・勇気・フェアプレイ・寛容・好奇心・忠誠心・郷土愛などの価値観を共有することで乗り越えることのできる試練であると語りかけているのだ。後に続く文がそのことを証明している。
 こういう言葉のニュアンスを翻訳文で伝えることは難しい、というよりも不可能である。もしやろうとすれば、翻訳の文は原文の5倍以上になってしまうだろう。それでもなお伝えきれない部分が残る。だから、翻訳文を読むだけでなく、原文そのものを読む必要があるのだ。生徒全員とは言わないが、原文の魅力を十分に味わいたい人は英語の勉強を徹底すべきだ
 ニムオロ塾は英語がわからなくなった生徒ばかりでなく、原文の魅力を味わいたいという志の高い生徒の塾でもある。小数でレベルがさまざまな根室の生徒のためには個別指導が最適だ。

 就任演説原稿(原文・翻訳)は勉強の材料としては高校生には少し難しいかもしれないが、欲しい人は塾生でなくてもあげるから、ちょっと寄って、「こんにちは、オバマ大統領の就任演説原稿がほしいのですが」と声を掛けてくれればいい。

 *和訳は22日付北海道新聞6面に載ったものを転載した。英文は23日付ジャパンタイムズ4面に載っていたものを転載した。
 (23)は私がつけた段落通し番号である。

**Collins Coubuld Advanced Learners Dictionaryは次のように定義している。
 patriotism: Partriotism is love for your country and loyality towards it.
  natinalism: Nationalism is the desire for political independence of people who feel they are historically or culturally a separate group within a country.

***オバマ大統領の就任演説とこのブログ記事を読み比べて欲しい。日本がやるべきことを書いてある。そこにはオバマが主張する価値観と重なる部分がある。
  10/10 #346 『これから10年間の日本経済のシナリオ』
   
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-10-10

  2009年1月26日 ebisu-blog#505
  総閲覧数:69,504 /427 days(1月26日12時00

 Nice!をくれたHirosukeさんという方はテクニカルライターだそうですが、大統領就任演説のブログを開いています。彼のブログを読んでみました。音読トレーニングを単語や句単位で意味をイメージしながらやると効果が大きいと言ってます。また、数年間英語の勉強に没頭して、小学生がたかだか英検準2級に合格するのにどれほどの価値がある、もっと日本語の勉強をすべきで、失うものが大きすぎるとも主張しています。英語教育に関しては辛口の意見です。面白いのでNice! を開いて彼のブログへ飛んでみてください。(1月27日12時40分記)


オバマ大統領就任演説を読む(1) [22] [オバマ大統領就任演説を読む]

オバマ大統領就任演説を読む(1) [22]

(22)  For as much as government can do and must do, it is ultimately the faith and determination of the American people upon which this nation relies. It is the kindness to take in a stranger when the levees break, the selflessness of workers who would rather cut their hours than see a friend lose their job which sees us through our darkest hours. It is the firefighter's courage to storm a stairway filled with smoke, but also parent's willingness to nurture a child, that finally decides our fate.

(22) 政府の能力や義務はつまるところ、この国がよりどころとする米国民の信念と決意なのだ。堤防が決壊したときに見知らぬ人を受け入れる親切心、暗黒のときに友人が仕事を失うのを黙って見ているくらいなら自らの労働時間を削る労働者の無私の精神。煙に包まれた階段を突進する消防士の勇気、そして子どもを育てる親の意志。これらこそが、最後にわれわれの運命を決定付けるのだ。

  思い切ったことを言うもんだなと驚いている。しずかな語り口の中に、これから彼が何をやろうとしているのかが垣間見える。果たしてほんとうにできるのだろうか?何箇所か大統領就任演説を一部抜粋して和英対訳で掲載して分析してみたい。これが第1回目である。

 和訳は22日付北海道新聞6面に載ったものを転載した。英文は23日付ジャパンタイムズ4面に載っていたものを転載した。
 (22)は私がつけた段落番号である。冒頭の和訳は適確だ。"can do" "must do"の助動詞の意味するところが「能力」と「義務」というように適確な日本語に置き換えられている。読売新聞の訳ではこの箇所は「政府はやれること、やらなければならないことをやるが」となっている。for as much asに重点を置いた訳だろう。この箇所は読売の訳のほうに軍配を挙げたい。わたしの拙訳も併せて記す。

「政府はやれることややらなければならないことだけをやるに過ぎないのだから、無視の精神はつまるところ米国がよりどころとするの国民の信念と決意でもある。」

  構文上とくに難しいところはないと思うが、一つの文章に関係代名詞が二つ使われているところが、高校生には見慣れていないところかもしれない。関係代名詞が一つの文に複数回使われるこのような文は教科書では滅多に出てこないが、新聞英語ではしばしば出てくる。
 "it"についてはこの文だけを見てもわからないので注記しておく必要があるだろう。(21)段落にある文の"this spirit"を受けている。具体的には"the spirit of service"「奉仕の精神」である。公の物・事への無私の奉仕の精神が大切だとオバマは説いている。

 さて、大統領就任演説では選挙期間中よく使われた"Yes, we can."が一つも使われていない。アジテーションがまったく影を潜めた地味な演説であった。そこにオバマ新大統領の決意を感じた人が多かったのではないだろうか。
 イラクからの撤退、アフガンへの派兵増強、イスラエルへの支持表明、グァンタナモ強制収用所の撤廃声明、今後の金融危機対策、財政危機など課題は山積みである。ブッシュがぐしゃぐしゃにした戦争・経済・財政の後始末をやらねばならない。

 経済対策のうち、全米自動車労組に選挙で応援をもらった手前、ビッグスリーへの対応策が難しい。オバマ新大統領は「暗黒のときに友人が仕事を失うのを黙って見ているくらいなら自らの労働時間を削る労働者の無私の精神」を国民に求めている。その無私の精神をもてるかどうかが「最後にわれわれの運命を決定付けるのだ」と。
 全米自動車労組が他の産業の労働者に比べて格段に優良な条件で働き、年金や医療を受けているが、それを棄てよと言っているようにも聞こえる。
 具体的に何が出てくるのか数ヶ月待たなければ分からないだろうが、楽な道がないことだけははっきりしている。市場は30%以上縮小してしまっているので、3社が揃って生き残ることは不可能である。どのような手順を踏んで、理解と納得ずくでいずれの会社を潰すのだろうか?
 その後に「暗黒のときに友人が仕事を失うのを黙って見ているくらいなら自らの労働時間を削る労働者の無私の精神」が求められるのだろう。
 素直に読めば、潰れた会社の労働者を生き残った会社の労働者が自らの労働時間をカットして受け入れよ、それも自分たちの意思でそうすべきだと説いているととれる。そこまでしないとならないほどの経済危機だと。

  2009年1月25日 ebisu-blog#503
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