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#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 [数学四方山話]

  数学の概念を少し厳密に扱うとしたら、数理論理学の基礎知識が必要になるのだが、高校数学で「第4節 集合と命題」(数研出版『数1』)の知識では間に合わない。
  自然数を例にとって演繹システムと概念規定のありようを検討してみよう。取り上げるテクストは小島寛之著『証明と論理に強くなる 決定版数理論理学の完全解説』(技術評論社)である。

  この本では3つの自然数が取り上げられている。「メカ自然数」「メカ自然数Q」「メカ自然数P」の三つである。これら三つのタイプの自然数は、言語(記号)、公理、推論規則で構成された演繹システム(公理系)として記述されている。これらの演繹システムのモデルは素朴自然数である。
  演繹システムとして一番古いものは中学数学の平面幾何の証明でおなじみのユークリッド『原論』がある。

  受験数学で習う自然数は{1,2,3,・・・n・・・}だが、
数理論理学では、0を含めて自然数ということが多く、本書でもそれに従います」(同書p.215)
 ( これはわたしの推測ですが、数学的帰納法に完全に対応するためにはゼロを含めておかなければならないという事情がありそうです。)
   
「メカ自然数」で使われる言語リストは10項目が挙げられている。論理記号ではないものが5個、論理記号が5個からなっている。前者は{0,S,+,×,:=:}、後者は{¬(でない), ⇒(ならば), V(または), ⋀(かつ), ⊥(矛盾)}である。
  メカ自然数の公理は6個(公理M1~M6)設定されている(同書p.224)。推論規則は「対称律」「推移律」「代入律」「合成律」の4タイプが挙げられている(同書p.227)。これらの公理系から定理1が演繹される。

 定理1:S0+S0:=:SS0   (1+1=2のこと)

  定理4まで解説されている。「素朴自然数で解釈して真であるような論理式は、必ずメカ自然数の体系で演繹できる。また、偽であるような論理式は、その否定型の式がメカ自然数の体系で演繹できる。」(同書p.237)
  メカ自然数は健全性と完全性が確保されていますが、述語論理が制限されているため、「偶数・奇数とか素数などの概念をメカ自然数で表現することができません」(p.244)

  そこで量化記号∀と∃を導入したものがメカ自然数Qである。メカ自然数の公理系はQ3を除いて、メカ自然数の公理を量化記号を用いて書き直したものとなっている。(同書p.247参照)
  数理論理学の教科書では「ロビンソンのQ」とか「ロビンソン算術」と呼ばれている。量化記号を使うために「変数」記号xが導入されている。量化記号を導入したことで、メカ自然数Qでは不等号を使わずとも大小関係が演繹できる。
  ところが、メカ自然数Qでは、加法の交換法則が演繹できない。このようなメカ自然数Qの難点を解消するために数学的帰納法の原理が公理に導入される。メカ自然数Pは「ペアノの算術」(ペアノは19世紀の数学者)と呼ばれている。その公理はメカ自然数Qに「公理Ind」(数学的帰納法の原理)を加えたものである。(p.275)
 
  どの(述語論理の)公理系でも推論規則は同一だから、公理系たちに見られる定理の違いは公理の違いから来る。(p.289)
  もちろん、言語(記号やその定義)が違っても定理に違いが出ることは言うまでもない。演繹システムに違いができるからだ。

  メカ自然数⇒メカ自然数Q⇒メカ自然数P

 この流れを見ると、右に行くほど使われる言語や公理が豊かになっている。簡単なものからより複雑なものへ、抽象的なものからより具体的なものへという流れがある。これらは演繹体系の展開に共通している。
 ユークリッド『原論』ではn多角形を三角形から初めて順次nの数を増やしていく。空間図形は平面を複数前提とするから、平面図形のあとで展開される。より単純なものからより複雑なものへという流れは演繹体系に共通といってよい。

  論旨をまとめておく。
  演繹系は言語と公理と推論規則からなっており、それらをひっくるめてモデルと称する。推論規則はどのモデルでも同一だが、言語と公理が違えばモデルに違いが出るのは自明だろう。自然数を例にとれば、メカ自然数とメカ自然数Q、メカ自然数Pは演繹システムが違う。そして数学的帰納法にはメカ自然数Pが使われている。現代数学の自然数概念は数学的帰納法と分かちがたく結びついている。


<余談ー1>
  じつは、メカ自然数Pの完全性(negation complete)はゲーデルによって成立しないことが証明されている。

ゲーデルの定理
 メカ自然数Pには、その言語で表現できる閉じた論理式φで、φも¬φもできないものが存在する(p.291)

 ここから先は、数理論理学の教科書を1冊マスターしてから、ゲーデル『不完全性定理』を読めというのが著者のガイドだ。それで岩波文庫版でいま読んでいる。訳注を含めて証明自体は57ページのコンパクトなものだが、さっぱりわからない。「ヒルベルト計画」を中心に置いた長大な解説を含めて310ページの本の、ようやく250ページあたりまで来た。解説部分は不完全性定理の証明の部分に比べると難しくない。読み終わったら、もう一度ゲーデルの証明部分を読んでみる。並行して記号論理学の教科書を1冊、そして集合・位相について書いた本を1冊、読んでいるが、時間がかかりそうだ。早く読んでもわからないから、試行錯誤しながらゆっくりでいい。

  次回は、ユークリッド『原論』を取り上げて、あの演繹体系で四角錐や円錐の頂点がいくつになっているのか御覧に入れたい。言語・公理・推論規則で構成される演繹体系と平面図形の頂点や立体の頂点の数は密接な関連がある。

  ユークリッド『原論』では、三角形に頂点はない、円錐にも頂点はない、角錐の頂点は一つ。なぜそうなっているのか、言語・公理と関係がある。ユークリッド原論では言語は「定義」、公理は「公準と公理」となっている。ユークリッド『原論』では平面図形の定義に「頂点」が含まれていない。じつに面白いのである。  

 <余談ー2>
 演繹体系として数学に興味があるのは、経済学とりわけマルクス『資本論』との類似点が多いからだ。労働は苦役であるというのが西洋経済学の公理である。これを日本的職人仕事観に置き換えたら、まったくことなる経済学が展望できる。世界中の経済学者でこんなことを主張している者は一人もいない。
 わたしは、そういう視点から数学の演繹体系に興味がある。カテゴリー「資本論と21世紀の経済学」にまとめてあるのでお読みいただけたらうれしい。

*#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26

 #3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26-1

 #3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017 

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-30

 #3538 ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n] May 7, 2017 

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-05-07



証明と論理に強くなる  ~論理式の読み方から、ゲーデルの門前まで~ (知の扉)

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  • 作者: 小島 寛之
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2017/01/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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