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#2967 『資本論』と経済学(23):「ピケティの空想的所得再分配論」 Feb. 10, 2015  [資本論と21世紀の経済学(初版)]


21. <『21世紀の資本』トマ・ピケティの空想的所得再分配論>

 ピケティは欧米各国のデータを調べて、資本収益率rと成長率gの二つを比べ、[ r > g ]という不等式を導き出す。資本収益率が成長率(賃金上昇率)を上回ることで、資本主義では経済格差が拡大することを一般的な法則と主張しているのだが、日本の現実はどうだろう? 過去40年のスパンで見たときにどうかという問題と、経済格差が急拡大した最近15年間ほどのデータではどうかという問題がある。

 「時事ドットコム」の勤労者の平均所得推移データをみると、1997年の446万円をピークに下がり続けており、2013年のそれは413万円で、1989年当時と同水準にある。最近20年間は勤労者の平均給与は下がり続けた。
*図解平均給与の推移:http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_company-heikinkyuyo 

 
資本収益率とは自己資本税引き後当期純利益率のことだろうが、統計資料をググってみたがヒットしない、自己資本経常利益率はみつかった。過去10年間では上場企業の自己資本経常利益率はおおむね10%前後あるから、税引き後の当期純利益を半額としても、株主資本税引き後当期純利益率(ROE)は5%前後あるようだ。ピケティの不等式[ r > g ]は最近20年間の日本でも成立していることは疑いがない。しかし、それを直接証明するデータは提示されていない。後で論じるが、そもそもそのようなデータは存在していない。
 
だが、ピケティの不等式よりも、小泉政権(20014月~20069月)以前からはじまった労働規制解除のほうが所得格差拡大に影響が大きいのではないだろうか。非正規雇用割合が約40%に上昇したことで、サラリーマンの平均所得が減少し続けている。非正規雇用割合は上昇を続けており、勤労者平均所得は1997年をピークに下がり続けている。所得格差拡大は労働規制解除による非正規雇用割合の増大によってもたらされたとも言いうるのである。

 
労働規制解除は米国からの要求に応じてなされた、グローバリズムの弊害である。各国はそれぞれの国の事情に応じた、雇用慣行があっていい、一律に米国と同じにする必要はないのである。グローバリズムを受け入れることで、先進国中で一番経済格差が小さかった日本が壊れつつある。米国の次の要求はTPPであるが、受け入れてはいけない。
 
話をピケティに戻そう。かれの不等式は最近20年間の日本の経済格差拡大の半分も説明できない。日本の経済格差拡大は労働規制解除が加速することで、急拡大したと考えられる。
 ピケティの論の面白いところは、この不等式で表された「一般法則」の向こう側にある。かれは経済格差を縮小するために、累進課税を強化すべきだと主張する。さらにもっと進んで、資産課税を主張している。たとえば、1億円超の資産を保有するものには年に1%の税金を課すというものだ。テレビ出演して応えていたのを見たが、10億円なら2%という風に、保有資産額の大きさに応じて税率をアップするというもので、きわめて大胆で具体的な所得再分配提案である。ほとんど革命ともいえるような資産課税の実現性の問題はさておいて、これならサラリーマンの平均所得以下の層は所得税を課税しないことができる。ピケティの論の背後には、経済格差拡大は社会的不正義であるという観念があるのではないだろうか。所得分配機能を強化することは社会的正義の実現であるという思想に基づいているようにわたしの耳には聞こえた。しかし、資本主義社会で資産課税をすれば、経済と政治の実権を握っている富裕層と真正面からぶつかることになる。政権与党や官僚が革命に等しい資産課税に踏み切る余地はほとんどゼロに等しいように思える。エスタブリッシュメントが自分たちの利権を自ら手放すわけがないから、ピケティは空想的格差解消論を提唱しているようにみえる。
 ピケティの論は所得再分配機能を強めることで国民の経済格差を縮小しようとするものである、理屈としてはわかるが、それは革命に等しい内容を含んでおり、実現性がほとんどない。わたしの職人中心経済社会論は、マルクス『資本論』の第一公理を「労働は苦役」から「仕事は歓び」に替えること、すなわち仕事観の転換により、生産のあり方や企業のあり方、そして経済社会のあり方を根底から変えてしまうものである。このように書いてしまうと、わたしの論もなにやら言葉遊びのようにも聞こえるだろうから、具体例を一つ挙げてみたい。

 [チーズ職人たちが協同で地域ブランドを創設しようとしている]
 十勝でいま面白い試みがなされている。チーズの地域ブランド、「ラクロス」を確立しようというものだ。複数のチーズ工房で造られたチーズの品質が一定でないと消費者の信頼は得られない。20252月に行われた試食会では、まだそれぞれのチーズ工房で造られたチーズの味に個性が強すぎるという評価だった。製造に関するさまざまな工夫をお互いにある程度公開して、品質の高いところにあわせる努力をしないと、売れる商品ブランドの確立はできない。チーズ造りに携わる職人たちの技と使う原料の品質が揃わないと信頼性が高く売れる商品の地域ブランドは確立できない。小さな工房が集まって原料や技に関するノウハウを出し合って物を協同して生産・販売していく、あたらしい時代の芽が道東でも生まれつつある。

[図表と資本収益率について]
 ピケティの図表をみても、日本の資本収益率は提示されていない。論より証拠、スライドに収載されている図表名をリストアップするのでご覧いただきたい。

1.1. 米国での所得格差、 1920-2010
1.2. ヨーロッパでの資本/所得比率、1870-2010(独・仏・英)
5.3. 金持ち国の民間資本1970-2010(米・独・英・加・日・仏・伊・豪)
5.5 金持ち国の民間資本と公的資本 1970-2010(米・独・英・加・日・仏・伊・豪)
3.2. フランスの資本、 1700-20102.5 世界の資本分配、1870-2010(アジア・アフリカ・アメリカ大陸・ヨーロッパ)
6.5 金持ち国の資本シェア1975-2010(米・独・英・加・日・仏・伊・豪)
10.1. フランスの富の不平等 1810-2010
10.2 パリとフランスの富と不平等の比較
10.3 イギリスの富の不平等 1810-2010
10.4. スウェーデンにおける富の格差 1810-2010
10.9. 世界的な資本収益率と経済成長率の比較 古代から2100
10.10. 世界的な税引き後資本収益率と経済成長率 古代から2100
2.2. 世界人口増加率 古代から2100
2.4. 太古から2100年までの世界一人当たりGDP増加率
12.1 『フォーブス』による世界の億万長者、1987-2013
12.2 世界人口と世界総資産に占める億万長者たちの比率、1987-2013
12.3 世界の富のトップ区分の資産シェア、1987-201312.1世界のトップ資産成長率12.2米国大学の資本基金収益率
3.2 フランスの資本、1700-2010
4.6 米国の資本、1770-2010
5.2 ヨーロッパと米湖訓国民資本、1870-2010
4.10 米国の資本と奴隷制 1770-2010
4.11 1770-1810年頃の資本:旧世界と新世界(英・仏・米(南部))
10.6. ヨーロッパと米国における富の格差の比較 1810-2010
8.5. 米国の所得格差、1870-2010
9.8. ヨーロッパとアメリカにおける所得格差 1910-2010
14.1 最高所得税率1900-2013(米・英・独・仏)
14.2 最高相続税率1900-2013(米・英・独・仏)

 スライドに収載されているのは28図と2表。ナンバーから推して本のほうにはこれの数倍の図表が載っているようだ。主として米・独・英・仏の4カ国のデータが主軸であり、世界第3位、独・仏を合わせた経済規模である日本*は刺身のツマ程度の扱いになっている。それにしても、ピケティ氏はデータ蒐集が大好きなようだ。
*総理府統計局「世界の国内総生産」http://www.stat.go.jp/data/sekai/zuhyou/03.xls#'3-1'!A1 

「図5-3 金持ちの国の民間資本1970-2010」には米国・米・英・加・日・仏・伊・豪の6カ国、資本収益率をダイレクトに計算あるいは比較できないので、関連指標群を取り上げることで代替しようというわけか?
 日本については3つの図で扱われただけであり、資本収益率は提示されていない。そもそも資本収益率という概念はあいまい、分母は2種類、総資本収益率と自己資本収益率がありうるが、分子も経常利益とするか、税引き前利益とするか、税引き後利益とするかで3種類考えられる。假りに分子は税引き後利益、分母は自己資本としよう、次に問題になるのは会計基準である。各国で会計基準が違っているだけではない、日本だけをとってみても、会計基準は2000年の「会計ビックバン」を境に大きく変更されているので、それ以前と以後ではそもそも税引き後利益の比較ができない。二つ問題がある。
 
ひとつは、繰延税金資産勘定である。リーマンショックで15兆円の穴を開けた銀行は、損失処理をしたが、その損失を7年間繰り延べできるように会計基準が変更されていた。当初は5年だった繰延期間は2年延長された。弊ブログ「ニムオロ塾」#2727で昨年6月にとりあげているので、抜粋する。
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-07-06-1

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…リーマンショックが2008年だった、その際に日本の金融機関がどれほどの損失を出したかご存知だろうか、おそらく記憶にないだろう。なんと1490億ドルである、現在のレート102/$で換算すると15兆円もの損失を出した。大きな仕掛けがあった。巨額損失15兆円は「繰延税金資産」という勘定科目で処理され、その後5年間に渡り利益と相殺され続けた。
 
繰延税金資産の有効期間は5年間だから、2008年度決算で生じた損失15兆円の繰り延べは2013年度(20143月期)までであったが、2012年に法律を改正して繰り延べ期間を2年間延長し7年と改めた。至れり尽くせりとはこういうことをいうのだろう。 実効税率(法人税+法人住民税等)を36%と假定すると、5.4兆円の免税となっている。 
 
政府は消費税の3%値上げによる平成26年度増収分を546億円と答弁しているから、繰延在勤資産で圧縮した5.4兆円の大きさがわかるだろう。
*http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b186101.htm

 法人税の実効税率は利益の約36%であるが、経済界は法人税本体の税率30%を20%に減額要望している、安倍政権はこれに応えて法案を提出するつもりのようだが、繰延税金資産勘定を利用することで金融機関は7年間で約5.4兆円の減税措置を受けた。この制度はずっと有効だから、二度目のリーマンショックが起きても大手都市銀行は安泰である。また税金の減免で自己資本の増強を図ればいい。
 こういうことは金融機関の経営にモラルハザードを招く。ハイリスクの金融派生商品に手を出しても、万が一の大損失には税金の減免がまっている。

 法人税収はリーマンショック後6兆円に減少したが、通常は年額8兆円から10兆円である。法人税率を20%に下げることでさらなる減税をするのだ。消費税は4月に5%から8%に引き上げられ、来年10月には10%へ再引き上げされる。大震災の復興税はすでに免除されている。

 金融機関に限らず、法人は「繰延税金資産勘定」を利用することで、法人税の大幅減税がすでになされているのである。そのうえ30%の法人税を20%にまで下げようというのだから、その強欲さには空いた口がふざがらぬ。金融機関に限らず企業経営者たちはモラルハザードを起こしている。
 政府財政は1000兆円を超える国債残高を抱えて青息吐息なのだから、法人も応分の負担をして財政健全化に貢献するというのが日本の企業のとるべき道だ

 
財界人の中から国の行く末を憂い、財政健全化のために法人税率を40%に上げようという意見が出てくることを期待したい。経営者は強欲な人間ばかりではない、まともな人も少なくないだろう。いるならぜひ声を上げてもらいたい

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 繰延税金資産については、企業会計と税務会計(所得申告)の調整に関する事項なので、あとで簡単な仮設例を挙げて注で解説する。

 
会計ビッグバンのもう一つの問題は、株式の時価評価である。それまでは株式は低価法で決算書に載っていた。取得原価か時価のいずれか低いほうで貸借対照表上に記載すればよかった。30年前に一株100円で百万株、1億円で取得した株が10000/株になっていても帳簿上は1億円だった。実際には100億円だから、業績が悪くなったら保有株を切り売りすることで損失補填ができたのである。それが時価評価になって、売却しなくても評価益を計上し、課税がなされる。上場企業株をたくさんもっていたら、株価の乱高下で利益計画に重大な変動が出るようになった。それで、企業間で持ち合っている株を市場でいっせいに売り始めた。現在、外国人投資家あるいは投資機関の国内企業上場株のシェアーは30%を超えてしまった。株式の評価基準が変わっただけで、企業間で持ち合いされていた株が一斉に売りに出たのである。ビックバン以前は保有株式の評価額が取得原価だから、自己資本額は過小に評価されていたことになる。会計基準の変更によって分母の自己資本の比較ができないのである。
 したがって、ピケティの論を直接証明する「資本収益率」に関する信頼するに足る統計データはない。でも、周辺のデータからおおむね妥当とは言えるだろう。それよりも1990年代後半からはじまった、労働規制解除のほうがはるかに経済格差拡大を推し進めたと言えるだろう。

  ピケティの本は分厚い学術書で5940円もするので、概要を知りたい人は、翻訳者がこの本に載っている表の一部をネット上にアップしてくれているので、こちらをご覧いただきたい。チャートが面白いと思った人は、分厚い本を注文したらいい。(根室でオリジナル(英語版)を読みたい人がいたら、5月以降なら土曜日に時間をとって付き合ってあげられる。)
 *2014-10-09 ピケティ『21世紀の資本』スライド
http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20141009/1412861233http://cruel.org/books/capital21c/Piketty2014Capital21cJapanese.pdf  




*#2935 『資本論』と経済学(1):「目次」 Jan. 25, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-25

 #2948 『資本論』と経済学(12) : 「学としての『資本論』体系解説」 Jan. 29, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-30

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