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#2961 『資本論』と経済学(20):「経済成長の天井 山田久氏の論」 Feb. 7, 2015   [資本論と21世紀の経済学(初版)]

  『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティの所得再分配強化論を追加した、21番目の章でとりあげる予定。この章の追加でますます楽しいものになる。
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18. #2770「経済成長の天井」:日本総研山田久調査部長の論 Aug. 11, 2014 

  さまざまな分野のスペシャリストが、それぞれ異なる意見を表明しているが、それらとマルクス『資本論』の公理・公準を入れ替えた「新しい経済学」を対比することで、両論の特徴がより鮮明に見えてくるから、山田氏の論に耳を傾けながらわたしの論を対置してみたい。

 山田氏は貿易収支が赤字になっていることと、人手不足を「新たなハードル」と名づけている。貿易収支の赤字には供給サイドの問題が隠れており、6月の有効求人倍率1.122年ぶりで建設・小売・外食産業に人手不足が現れている。とくに外食産業ではアルバイトを確保できずに閉店が相次いでいる。山田氏はこれら二つの問題を個別に論じている。

[
]供給サイドの要因
  「国内生産設備の圧縮+人口減少」の二つの要因の影響を挙げている。彼の論によれば、外国人労働者の受け入れ増大は根本的な処方箋にはなりえない。外国人労働者を増やして設備投資を拡大しても、将来設備過剰になることが目に見えている。人手が足りなければ生産性を上げることを考えるが、人手が足りてしまえば、そうした圧力がなくなり、生産性向上にブレーキがかかるという。
 
では外国人労働者が増えなければ生産性向上が実現できるのか、そんなに単純な図式ではないだろうとわたしは思う。理由は後で述べる。

[
]需要が不足するというリスク
 消費拡大には賃金上昇が必要なのだが、賃金上昇のテンポに懸念がある。知的労働者の多い外食産業のアルバイトの時間給は上昇しているが、大手企業と製造業では人余りのままである。したがって、これらの分野ではボーナスの上昇はあっても、基本給アップは限定的となる。つまるところ消費拡大はないという結論である。
 その通りだが、
いまごろこんなことを言い出すのだからよほどのんびりした性格に違いない。

[3]
供給不足経済が広がり始めている
 
人口減少による人手不足で、製品やサービスの供給能力が落ちてきている。建設業界、外食産業でそれが顕著に現れている。

[山田氏の処方箋]
 生産性と賃金が同時に上がればいい、それには二つポイントがある。
 
物的生産性向上
 
付加価値生産性向上

 GDPよりはGNI(国民所得)を増加していくことを考えるべきだというのが山田氏の主張である。海外投資からの利益を増やし、その結果賃金が上がるというルールをつくっていく。物づくりは海外でやり、商品開発は日本でやる。
 
これは政労使会議での決定事項と同じだ。日本総研は三井住友フィナンシャルグループが大株主だから、そういう意見になるのだろうか?

 日本経済の先行きを考えるときに、縄文時代以来1.2万年の日本列島で、はじめての人口縮小は高齢化と少子化の同時進行によって起きている。人口縮小時代に突入したという大きな時代認識が不可欠であることは論を俟たないだろう。山田氏の論にはそういう大局観が希薄に見える

 二つ、論点を指摘しておきたい。
 一つは、海外に生産拠点を移したまま、国内で商品開発をするという分業体制を考えているが、これは一部の企業の特殊な例に幻惑されて、現実を見ていない雑な議論である。
 たとえば、繊維メーカ(帝人)は海外に生産拠点を移したため、国内に30年以上工場をつくっていないという。海外子会社には工場新設の技術があるが、国内で工場新設の技術者はとっくに退職して、技術自体が失われてしまったという。もう17年も前に聞いた話だ。国内に工場がないのだから、生産技術の伝承もできない。物の生産という面では国内の技術が急速に失われつつある。裾野がどんどん小さくなっていることが、新商品がでてこない理由の一つに数え上げられるが、山田氏はそれをさらに促進しようというのだ。
 伊勢神宮の式年遷宮を考えてみたらいい、建築技術伝承のために20年に一度建て替えを繰り返している。1400年もそうしたことを連綿と続けているからこそ、技術伝承がある。仕事があれば技術伝承ができるが、国内に仕事がなくなれば生産技術の伝承は途切れてしまう
 それゆえ、海外に生産拠点を移して、国内で商品開発という分業体制は国内に生産技術が失われてしまうことを意味している。
 日本が上手だったのは生産現場でのさまざまな工夫・アイデアが生まれて、製品の改良や新商品のアイデアが出続けたということ。生産性向上は製造現場で仕事をするさまざまな職種の職人たちが担ってきたのである。新商品も開発チームには思いつかぬ工夫が生産現場で次々となされる。そうして高品質の新製品ができあがっていく。生産現場で工夫がなされることで高品質の製品が市場に出せる、松下産業が典型的な企業だろうし、トヨタだってそうだ。米国型の生産と商品開発のような分業システムは日本では稀だったし、これからもそうだ。
 生産拠点を海外に移し、国内では商品開発を行うというのは、日本的な商品開発のやりかたを不可能にしたり、生産工程改善の芽を摘む愚かな政策にみえる

 二つ目の論点だが、山田の処方箋「海外投資家らの利益を増やし、その結果賃金が上がるというルールをつくる」ということだが、これも幻想で、現場を知らぬ学者の論と同じ。
 日産のカルロス・ゴーンが最悪のお手本をみせてしまった。リストラと非正規雇用増大による利益拡大、そして役員報酬相場を跳ね上げてしまった。この20年間で役員報酬は2倍になったが、サラリーマンの平均年収は下がっている
 厚生労働省が公表している「毎月勤労統計調査」によれば、1997年の月額37.1万円をピークに減り続け、2013年度は月収31.4万円になっている。ピークに比べて15.4%も低下している。非正規雇用割合がじりじりと上がり続けているからだ。
*http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_company-heikinkyuyo 

 
生産年齢人口はこの数年で200万人減少しているから、平均月収の低下と勤労者人数の低下のダブルパンチでは消費が増えるはずがない。

(暮れの12月24日になされた静岡経済研究所の「主婦の消費動向アンケート調査」では「
景況感はやや後退、家計の引き締め傾向強まる」、主婦の7割がこれから一年間財布の紐を締めると回答している。この経済研究所の分析では、消費税アップと円安による物価上昇が主婦の行動を引き締めに変えたということだ。内閣府が毎月「景気ウォッチャー」調査を公表しているが、11月のそれは「先行き判断悪化」だった。理由は物価上昇によって企業収益や消費者行動に危険信号がともりはじめたからだ。)
*静岡経済研究所「主婦の消費動向調査」
http://www.seri.or.jp/news/press/post_67.html

 無能で度量の小さい経営者達がこぞってカルロス・ゴーンを真似て社員をリストラし、非正規雇用を増やすことで利益を確保することに慣れきってしまった。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」には、企業で働く人々の仕事のしがいや幸福も入っていたはずだが、こうした伝統的な商道徳を忘れてしまったかのような経営者が巷にあふれ出しており、日本の伝統的な経営観が失われつつある。
 しかし、「売り手よし、買い手よし、世間よし、働く人よしの四方よし」を実際の経営でやるのはなかなか厳しい。経営者に高い能力と大きな度量が要求される。高いレベルで経営のバランスをとるためには高い経営能力が要求されることは当然であるが、そういう経営者たちは次々にこの世を去り、倫理レベルの低い取締役たちが名門企業で次々に増殖していった。経営倫理基準と経営能力の低い経営者たちは利益を上げるために社員をリストラし非正規雇用を増やす、簡単に利益が出るからだ。心理学的に言うと「近道反応」である。その結果、役員報酬は2倍になったが、正規雇用の社員と非正規雇用をあわせた勤労者の平均年収が減少している。サラリーマン男子の4人に一人が300万以下の年収だという。自分さえよければという倫理基準の低い経営者が増えている証左だろう。
 
人口減少時代は経済規模の縮小の時代でもあるから、過去の日本のように経済成長によって所得(分配)を増やすことはできないから、分配の公平性をどこかで保障しなければならない。現実は非正規雇用割合の増大によって労働分配率が低下しつつある。

 
法人企業統計によると企業の内部留保は1998年には131.1兆円だったが、2012年には304.5兆円と173.4兆円も増えている。14年間で2.3倍である。別の資料で調べてみたら、2013年度はさらに23.4兆円増えて327.9兆円になっている。2014年度は株価が上がっているから評価益が出てさらに50兆円以上増えるだろう。追って公式統計が明らかにしてくれる。サラリーマンの平均年収が下がっているのにこの14年間で民間企業の内部留保が2.3倍に膨らんだということは、労働分配率が低下しているということ。
*
「法人企業統計から見る日本企業の内部留保(利益剰余金と利益分配)」前財務省総合政策研究所次長岩瀬忠篤、財務省総合政策研究所調査統計部佐藤真樹共著
http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f01_2014_03.pdf

 
どのデータも同じことを告げている、強欲な資本主義が日本中に蔓延してしまったのがこの20年間だ、山田氏は牧歌的すぎる。
 日本企業の経営者たちの倫理水準はいまや米国の経営者たちと同レベルである。グローバリズム(強欲な者たちの資本主義)が日本の経営者たちの心を蝕みつくした。

 私の処方箋は、生産拠点を国内に築き、国内雇用を確保することだ。強い管理貿易(=経済鎖国)をして、日本国内で生産できない商品のみ輸入すればいい。安全で高品質なものだけ国内生産を行い輸出すればいい。肉体労働を伴う雇用の場を飛躍的に増やせば、学力競争に敗れた過半数の若者たちを救える。若者たちに安定した職が保障されれば、少子化にも歯止めがかけられる
 強欲な資本主義から小欲知足の職人主義経済へ移行しよう
 工場だけでなく生産の仕組みや生産技術そして資材調達の仕方も含めて輸出したらいい。それが21世紀に日本が世界に対してなしうる貢献の最善のものである、志を高くもとう
 



*#2935 『資本論』と経済学(1):「目次」 Jan. 25, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-25

 #2948 『資本論』と経済学(12) : 「学としての『資本論』体系解説」 Jan. 29, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-30

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