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#2634 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(2) Apr. 7, 2014 [職人仕事観に基く経済学の展望]

 マルクスは工場労働を背景にもつ抽象的人間労働を経済学体系の端緒にして経済学を築いたが、わたしは職人仕事を中心にすえた経済学を描いてみたい。
 マルクス「賃労働」の基本には「労働=苦役」という考えが根本にあり、その淵源はギリシア古代都市国家の奴隷労働に遡ることができるだろう。奴隷や農奴や工場労働者は生産手段をもたず、生産物に対する所有権もない。それらのものから疎外されている。
 日本人の仕事観はこれとは著しく異なり、「労働=苦役」という図式はなく、「仕事=神への捧げ物をつくること」という図式が古来から久しく受け継がれてきた。
 どれくらい昔からと問われても定かではないが、神へ捧げ物をする習慣は出雲神社や伊勢神宮創建時から伝わるものだからそれらよりも古く、古墳時代と弥生期を飛び越えて縄文期にまで遡るのだろう。
 日本人は縄文期には森や海の近くに住み狩猟や漁労をして生活していた。だから、自然との調和のなかで暮らす期間が長く、鎮守の森に代表されるように森を大切にしてきた。森を大切にする心は里山や農耕地も大切にする心へとつながっている。美しい棚田の風景や、森を大切にすることで沿岸の魚介類の棲息域を良好な状態に保ってきたのである。人間の生活や命が生きとし生けるものや自然とつながっているという実感が日本人にはある。アイヌの文化にはそういうものが色濃く残っている。メソポタミア文明が森の破壊からはじまるのとは好対照である。

【仕事は清々(すがすが)しいもの】
 話しがやや脱線したが、神への捧げ物をつくるところから日本人の仕事観が出発していることは特筆しておくべきだろう。それが典型的に現れているのは正月の刀鍛冶の仕事である。禊をして衣類を全部取り替えてから仕事を始め、作られたものはいったん神へ捧げられる。漁師が大漁の御礼に一番いい魚を神に捧げるのも同じことだ。歌舞伎も文楽も楽屋裏には必ず神棚が設けられている。この国では仕事はすべからく神へつながる。
 だから、仕事の手を抜くことは許されない。誰かが許さないのではなく、仕事をする人自身が己の手抜きを許さないのである。だから日本人の仕事には本来は「監視」の必要がない。誰も見ていなくても神様が見ている、それゆえ手を抜かないのが職人仕事である。なにしろ日本には八百万の神々というほどたくさんの神様がいらっしゃるから、誰もみていないどころか八百万もの神々が見ておられるから、人は己に正直に誠実に渾身の力で仕事をしなければならない、ゴマカシは利かないのである。正しいやり方で手を抜かず、渾身の力で仕事するのが正しい職人の在り方である。正しいことを正しいやり方でゴマカシなしにやる、だから日本人の仕事は清々(すがすが)しい。
 奴隷の労働や工場労働が苦役であるのとは大違いで、日々仕事の技術を磨き最高の物を創るという喜びがそこにはある。

【人間よし、他の生物よし、地球環境よしの三方よしの経済学】
 経済学の端緒にこのような「職人仕事」を措定したらどういう経済学が展望できるのだろう。経済は人間中心主義から他の生物や環境との調和を利益に優先して考える万物調和主義へと切り替わる。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」は「人間よし、他の生物よし、地球環境よしの三方よし」と読みかえることができるだろう。

【日本の伝統的な価値観と職人中心の経済学の特徴】
 気のつく限りで職人仕事を中心に据えた経済学の特徴を箇条書きにしてみたい。
(1) 「人間よし」は特定の人間にとってよければいいということではないから、給与格差の大きい非正規雇用は弱者をいじめる卑怯な経営だから認めるわけにはいかぬ。正規雇用にするか給与格差を解消すべきだということになる。

(2) 仕事は渾身の力でやり、日々技術を磨く。資本主義や共産主義では労働者が時間で自己の労働能力を切り売りするから一生懸命にやり質が高まれば高まるほど労働者は損をした気分になるが、職人はいい仕事をして仕事自体に満足と歓びを感じる

(3) 国内に雇用を増やす:貿易は最小限にとどめる。国内で生産できるものは生産し、国内で消費する。安全で品質レベルの高い商品を輸出し、自国内で生産できないものだけを輸入する。つまり、高くても安心・安全で品質の高い国産の作物や家畜や魚介類あるいは製品を優先して使うということ。世界中の国がそうすればいい。すべての国あるいは複数の国が集まった地域がその国や地域に必要な物の生産拠点となる。
 ⇒自立した経済が主、貿易は従

(4) 教育の重視:知的エリートの育成職人仕事のエリート養成をおこなうために教育を重視する。それぞれに応じた教育の制度化を行う。
  ⇒安心で安全そして品質の高い製品をつくるために生産技術を重視した教育を行う。それは学校教育のみならず、あらゆる作物や製品の開発・生産・技術の普及および伝承までを網羅する。

(5) 社会的不正義の上に利益が築かれてはならない

(6) 経済的取引で卑怯なことはしない

(7) 浮利は追わない

【職人仕事や職人仕事中心の経済社会とはどういうものか】
 日本の伝統的な仕事観や商売の倫理に基く経済社会とはとんなものだろう?名人クラスの職人ははどこかで宗教的な悟りと同様の境地に至るケースが多いのはなぜだろう、理由があるはずだ。ランダムに論点をリストしてみたい。

① 宮大工の仕事に学ぶ
 『木のいのち 木のこころ』西岡常一
 『木のいのち 木のこころ』小川三夫
 『木の教え』塩野米松

②柳宗悦に学ぶ
 ⇒全集を抜き読みする必要がある、写真集も眺めなくてはならない。

③物の値打ちがわかる数寄者の存在

④最高レベルの職人が作った高価な品物を買う消費者の存在。

⑤一流の職人への社会の敬意の存在
 ⇒日本ではあらゆる仕事が職人仕事に変わる、まるで日本の伝統的な文化や価値観が触媒の役割を果たしているかのように見えて仕方がない。

⑥職人の種類⇒例えば文楽にかかわる職人層

⑦天皇が一流の職人たちに官位を与えた
 ⇒『用命天皇職人鑑』近松門左衛門

⑧日常生活の中でよいものを大事に使う文化の存在

⑨リストラをして利益を増やすのは間違いのもと。他人の不幸の上に企業の繁栄があってはならぬ。

⑩小欲知足:社会階層の上位に属する者たちが強欲であってはならぬ。経済格差は小さいほうがよい、智慧のあるものは智慧で、高いレベルの技術を有するものはその技術で社会に貢献せよ。
 ⇒日本企業の初任給と役員の給与の比率は1対15以下にする

⑪50歳をすぎたら地域社会への恩返しをする季節としたい、そういう人生区分があってよい。ふるさとに、地域社会に育ててもらった恩を返す季節をもつのがあたりまえの経済社会。

⑫蓄えるのが先で使うのは後:平時に借金は増やさない、将来の危機に備えてまず貯蓄ありき。危機が訪れたときに取り崩して使うべし。
 ⇒日本人はずっとそうしてきた。村で非常用備蓄をしていた具体的事例を発掘する。領主が命じたのではなく、村が独自に備蓄している例があるところが日本の村落共同体のすごいところ。

 
 重複している部分があるが、①から⑫までを調べて整理するのはなかなか手のかかる、しかし楽しい作業になるだろう。
 職人仕事を経済学体系の端緒に措定する経済学はおおよそこのような特徴をもつことになる。地球環境を破壊せず、拡大再生産や経済成長を目的にしない経済のあり方がそこにを示されるのではないだろうか。弱肉強食のジャングルのような資本主義とも共産主義とも異なる仕事観に基く経済社会を具体的に展望してみたい。

 ebisuといっしょに日本的価値観に基く経済学を創ろうという人が出てきてくれたらうれしい。


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ー余談―
 今日はお世話になっている床屋さんのお父さんのお通夜に行ってきた。2月には仕事もしていて元気だった。癌を乗り越えた同士でもあったし、昭和34年までebisuの家の前にある床屋さんで若い頃働いていて小学校に入るかはいらぬ頃の幼いebisuを知っている人でもあった。
 昭和30年代は根室のほとんどの家が貧乏だったけど一生懸命に勉強して働けばなんとかなる時代だった。あの頃の話しをできる人たちがほとんどいなくなってしまった。その声や表情の断片がいまは記憶の中にあるだけ。
 「死ぬときは東京で死んでほしい、死ぬ前に東京へ帰って来て。冷たくなったお父さんと対面するのは嫌だから」そう一人娘に言われましたと話したら、おだやかに笑っておられたのは1月だったか2月だったか。あんなに元気だったのに、懐かしい人がまた一人逝ってしまった。ご冥福を祈ります。
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*#2631 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(1) Mar. 31, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-03-30-1

 #2634 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(2) Apr.7, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-06

 #2643 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(3) Apr. 13, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13


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